神奈川県立厚木高校 出前授業

神奈川県立厚木高校 出前授業

日時2008/7/17, 18
場所神奈川県立厚木高
対象[17日] 25 名 × 2 クラス
[18日] 25 名, 22 名, 32名の 3 クラス
担当者[17日] 宮田(英)、藤貫、佐々木、深瀬、金澤
[18日] 浅見、伊藤、山崎、深瀬、橋畑

神奈川県厚木高校で2日間行われる校外の講師を招く授業の一環として藤貫さんと宮田さんによる授業が行われました。 対象は高校2年生で、進路や将来の職業などを考えるきっかけとして非常に有意義な授業が行われたのではないでしょうか。それぞれの日に行われた授業は、次の通りです。

[17日]

  • 「DNAから見る生命の不思議~隠された設計図を見てみよう~」
  • 「見えないけれど確かにある!!“電波の世界”」

[18日]

  • 「初期宇宙を探ろう!」
  • 「素粒子・宇宙線から見た現代の宇宙像」
  • 「小さな針で原子を見る~走査トンネル顕微鏡で見る超ミクロの量子世界~」

では各授業の様子をお伝えしたいと思います。

講座名:「DNAから見る生命の不思議~隠された設計図を見てみよう~」

講師:藤貫直子(慶應義塾大学理工学部生命情報学科)

今回の講義ではDNA抽出実験を通して、生命の設計図であるDNAの不思議さと生命科学という学問についてのお話でした。大学生が学んでいる科学とはいったいどんなものなのか?科学を学ぶということとは?ということについても話すことによって、進路選択の真只中にいる高校生にメッセージ発している授業であったと思います。

自己紹介と大学生活のお話の後、DNAと遺伝子とはなにかについてのお話でした。高校生は1年生の時の授業で習っていた分野でしたが、その発見の過程をもう一度考えていくことによりさらに深い理解が得られたのではないでしょうか。また、その中でワトソンとクリックの論文を紹介することによって科学者や大学生の日常を垣間見ることができ、とても興味がわいているようでした。

藤貫さんの講義の始まり
藤貫さんの講義の始まり

次に、DNA抽出実験ですが実験をただ行うだけでなく、その過程や理論、目的にも焦点を当てながら行ったことによって、1つ1つの手順の意味をしっかり考えることができました。また、実際に抽出された白いDNAをみて、「DNAを実際に見られて感動した。」や「白い色というが意外だった。」という感想が出ていました。

その後、遺伝子解析や遺伝子の働きについてのお話がありました。今後の遺伝子を用いた医療などの問題について考えさせると共に、生命倫理や科学のあり方について触れることによって高校生が将来の職業を決定するときに何かのきっかけを与えられたと思います。実験を通じて実際にDNAを見ることによって科学を身近に感じるきっかけになった授業でした。

実験説明中
実験説明中

講座名:「見えないけれど確かにある!!“電波の世界”」

宮田 英明さん(早稲田大学理工学部応用物理学科)

「見えないけれど確かにある!!“電波の世界”」というテーマで、早稲田大学の宮田英明さんに講義をしていただきました。身の回りで多く利用されている電波は、目には見えません。しかし、信号の伝搬やエネルギー輸送の手段として、現代生活とは切っても切れない関係があります。そんな不思議な電波の正体に電波を聞く実習を通して迫りました。

授業は、まず講師とアシスタントの自己紹介から始まりました。その中では大学生活について触れられ、高校生はやはり興味深そうでした。その後、簡易分光器を用いて教室の蛍光灯を何人かの生徒に見てもらい、波長の違いによって色が異なることや、電波も光と同じ電磁波であることが説明されました。そして実習の導入として、コイルに棒磁石を近づけると電流が流れるという電磁誘導についての実験を実際に行い、それを足がかりに、どのようにしたら電波を聞くことができるのかが話されました。

宮田さんの講義
宮田さんの講義

実習では、銅線を巻いて作ったコイルなどを用いて電波受信回路を作成し、身の回りのどのようなものから電波が出ているかということを体感してもらいました。実習中、高校生は教室にある様々な電気製品が発している電波に驚かされているようでした。「他の電気製品についても試してみたい。」という声も聞こえました。

最後に実習のまとめとして、なぜイヤホンから音が出たのかという原理を再び説明するとともに、物理学という学問についてもお話しがありました。高校生はより一般的な原理を知ることによって、さらに深い理解が得られたことと思います。また現象に対して、たとえそれが目に見えなくても、それを知覚できる形にするということがどのように次に繋がっていくかということ話がありました。物理学(科学)について少し考えてもらうことができたのではないかと思います。

実習中
実習中

身の回りにあふれている電波について、身近に感じることができ、興味を持たせることができた授業だったと思います。

講座名:「初期宇宙を探ろう!」

浅見奈緒子(東京大学天文学教育研究センター)

東京大学大学院の浅見奈緒子さんに「初期宇宙を探ろう!」というテーマで授業を行っていただきました。全体としては宇宙のはじまりがどうなっているのか、またそれを知る鍵となるクエーサーとその観測方法について図を多く交えながらわかりやすく説明していくというものです。参加者には宇宙というテーマにもかかわらず女子も多く見られ、男女問わずに宇宙に関心を抱いている方が多いことを感じさせました。

浅見さんの講義
浅見さんの講義

まずは冒頭で浅見さんが軽い自己紹介をされた後に天文学者は何をどのように研究しているのか、という天文学者の仕事についてクイズ形式で触れていきます。ここで天文学者は望遠鏡を日々のぞいているものと思われがちですが、厚木高校の生徒の皆さんが天文学者はパソコンに向かって解析しているものと知っていて驚かされました。

宇宙の見方
宇宙の見方

次に観測方法として光の波長の違いを利用することを説明したあと、実際に分光器を作って太陽光やナトリウムランプなどを見てもらいました。最初は分光器にCDを使っていたので、太陽光が虹色に見えてもあたりまえの様に感じられて混乱しているようでしたが、ナトリウムランプや消毒用ランプからオレンジや青などの特定の色が見えると「おお」という声が所々で上がっていました。分光器の作成では箱自体を作るのは順調でしたが採光用のスリットを入れるところで苦戦する生徒さんが目立ちました。この点に関しては改良の必要があると思われます。

分光器を使う
分光器を使う

分光器を見てもらった後はクエーサーについて詳しく触れていきます。先ほど作った分光器でどのように探すのか、見つかったクエーサーで何がわかるのか、そしてクエーサーの正体は何か。少々専門的な内容でしたがクエーサーの正体のところでブラックホールが出てきたことについて授業後、質問にきた生徒さんがいたので少しは理解していただけた様に思えました。

当日は蒸し暑くプロジェクターの都合のため暗い部屋で授業を行いました。それにも関わらず生徒の皆さんの熱心に話を聴こうとする姿勢が印象的でした。それでも終盤では疲れてくる生徒もいたので、当日の様な猛暑のときは何かしらのリフレッシュを途中で挟んだ方がよいと思われます。

授業後には分光器でもう一度消毒用ランプなどをのぞく人が目立ちました。また浅見さんが女性の研究者ということで授業後には先のブラックホールも含めて女子生徒が進路の相談などをしにきていました。

講座名:「素粒子・宇宙線から見た現代の宇宙像」

講師:伊藤英男(東京大学宇宙線研究所)

当講座には22名が参加いたしました。授業は古代の宇宙像と現代の宇宙像の比較から始まり、宗教観の違いや客観的事実の変化による現代の科学までの考えについて話されました。有名なハッブル宇宙望遠鏡の成果を交えて、現代の宇宙像をインフレーションから始まって大きな宇宙に変化するわかりやすい図で表し、そこに素粒子が深く関わっているということを説明しました。素粒子の話ではクオークやレプトンの他に、ニュートリノ研究でノベール賞を取られた小柴さんの話や、今まさに研究がされている質量に深く関わるといわれているヒッグス粒子の話などの興味がわく話をされ、話を聞く生徒は真剣そのものでした。授業の途中には宇宙の研究に関わる学問の説明をし、高校生の進路に参考となる話をしました。

伊藤さんの講義
伊藤さんの講義

授業の中盤には放射線を簡単な方法によって見ることができる実験を行いました。発泡スチロールをベースとしてアルコールと人体に影響が無い微弱の放射線を含む布を入れた容器をドライアイスで冷却して、放射線の1つであるα線が容器内を飛んでいる様子を観察しました。30℃近い気温でしたが、その暑さにも関係が無いほど、アルコールの蒸気に反応したα線が見られました。講師の伊藤さんは若干見ることが難しいβ線も見られるかもしれないと話され、生徒はより真剣に観察していました。

実験キット
実験キット
製作風景
製作風景

実験後は宇宙線について、宇宙の構造や様々な現象の解明につながることを話しました。実際に研究が行われた重力波検出実験やニュートリノ研究で有名なカミオカンデについて説明をし、宇宙線の面白さを生徒に伝えました。

授業内容は素粒子や宇宙線という高校生が普段聴く事が少ないものだったので、難しかったかもしれませんが、授業後の質問コーナーではブラックホールの質問が出るなど宇宙や素粒子への関心の高さが伺えました。

講座名:「小さな針で原子を見る~走査トンネル顕微鏡で見る超ミクロの量子世界~」

講師:山崎詩郎(東京大学物性研究所))

この講座にはミクロの世界の話に興味持っている32名が参加しました。まずは原子の大きさを日本列島に例えて、そのスケールに生徒は驚いていました。本格的な授業に入る前に、様々な科学グッズについて紹介しました。周期表が描かれたTシャツなど、これでもかと出てくるグッズに生徒は驚きや笑いが起こりました。休憩時間も興味深そうに見ていました。

周期表のTシャツ
周期表のTシャツ

授業ではミクロの世界の原子や量子論、走査トンネル顕微鏡の話をアニメーションや図を多く用いて話しました。走査トンネル顕微鏡で得られたシリコン表面の原子配列のプリントを配り規則性を探らせたところ、思い思いの規則性を見出していました。シリコンウェハーを学生に割ってもらったところ、三角形に割れるので驚いた様子でした。他に光が波である様子をレーザーポインターを使って黒板に映し出していました。高校物理で習うスリットの実験に似ていて、その様子を真剣に見ていました。

光の干渉
光の干渉
拡大
拡大

シュレーディンガーの猫の話をすると、不思議に感じ詳しい説明が求められました。授業後のアンケートでは少し難しかったけど量子論に興味を持ったという声などが多く聞かれ、日常と違う世界のインパクトと面白さを感じていただけたと思います。

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