日時 | 2009/12/11 |
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場所 | 島根県立松江北高等学校 |
対象 | 理数科2年生109名 |
担当者 | 宮田(英) 穂坂 佐々木(雄) 毛利 高橋 藤貫 |
島根県立松江北高等学校において、総合的な学習の時間に、『理系脳を刺激する 』と題して理数科の生徒に対して90分間の出前授業を行いました。授業を行ったのは、それぞれが現役で研究を行っている大学院生。物理と数学を中心に、電磁波、電界と磁界、素粒子、オイラー数、等々計4つの講座を行いました。
授業中は、授業内容に加えて大学生活や受験についての質疑応答も活発になされ、また授業時間だけでなく、休み時間や終了後も積極的に質問する姿に生徒の知的好奇心の強さが垣間見えたひと時となりました。大学院生を通して一足先に大 学での学問に触れることで、大学での専攻や大学生活、また受験について知り、考えるきっかけになったのではないかと思います。
以下に、各講座の詳細を紹介いたします。
早稲田大学先進理工学部 研究科物理学及び応用物理学専攻の、宮田さんの電波についての授業では、電波受信機キットの工作を交えて身の回りの身近な電波についてのお話が行われました。初めに、電場と磁場の関係について触れ、それを踏まえて電磁波の仕組みについて説明を行いました。次に、一番身近な電波である交流電流(松江では60Hz)について、オシロスコープを用い て視覚的に理解を深めました。その後、電波受信キットの紹介と作り方の説明の後、キットの工作を行いました。電波受信キットは、アンテナ用の導線とダイオード、イヤホンからなり、電波をキャッチすると音が出ることで電波を「聴く」ことが出来るようになっています。工作後は、どんなものから電波が出ているか、パソコンやテレビ、蛍光灯など、生徒が教室の中にある様々な機器類にキットを近づけて探る様子が印象的でした。
「課外活動のこと」「人との出会いのこと」「大学生活のこと」「電波について、実習を通して具体的なイメージを持ってもらうこと」と、沢山の伝えたいことが詰め込まれた授業は、座学だけなく、電波を「見る」「聴く」ことのできる充実した内容で、授業前後で電波についての印象が変わったという生徒も多く見受けられました。中学から高校、大学の物理学をなめらかにつなぎ、電波を“体感”できる講座は、物理をより身近に感じるきっかけになったのではないかと思います。
東京大学大学院数理科学研究科所属の穂坂さんによる位相幾何学についての講座では、主に「多面体についてのオイラーの定理」,「曲面のオイラー数」,「曲面の分類」の3つの内容についてお話が行われました。初めに多面体についてのオイラーの定理の紹介がなされ、正四面体や立方体での例が挙げられたあと、それぞれの多面体を分解する作業を追うことで定理の証明を行いました。次に「曲面のオイラー数」では、証明した多面体についてのオイラー数を、三角形分割を行うことで曲面へと拡張、「穴のあ いた曲面のオイラー数はいくつか?」と、ドーナッツを使って生徒と一緒に考える場面もありました。最後の「曲面の分類」では、図形を分類する学問としての 位相幾何学、トーラスとクラインの壺の話題が登場し、生徒の関心をひいていました。
「数学が好き」な生徒が多く集まった今回の講座では、高校で学ぶ数学とはほとんど関係のない位相幾何学という題材ながら、絵や実物の例が出ることで、大学での数学を面白がって聞いてもらえたようです。授業外でも「4次元」や「9次 元」、オイラー数についての質問が積極的になされるなど、好奇心旺盛な生徒にはなかなか刺激的な授業だったのではないでしょうか。
東京大学大学院理学系研究科所属の佐々木さんの講座では高校化学で扱う分子、原子を更に細かくした先にある「素粒子」について扱いました。まず日常のサイズスケールからスタートして徐々に小さくしていき、最終的に行き着く素粒子というものとはなにかを説明しました。次に加速器の写真を見せ、実際にどのように加速器は作られるのかをそこに行った実体験を元に説明しました。そして素粒子を扱ううえで欠かせない対称性という考え方を、ワークシートを用いて実際に手を動かして生徒に実感させました。素粒子という目に見えないモノをどのように扱っているかを理解してもらえたのではないでしょうか。
素粒子という高校生にはあまり縁のない題材でしたが、却って生徒の目には新鮮に映ったようです。最先端の研究分野であり、ややもすれば難しくて思考停止されてしまってもおかしくない題材ですが、粘り強く説明した結果、高校生にも理解され、感動されたようでした。最先端の研究の話を聞く機会があまりない中での今回の講座は、生徒さんにとってこれからの学習の指針となってくれるのではないでしょうか。
東京大学大学院理学系研究科所属の毛利さんの講座ではまず毛利さん自身の大学院の研究について紹介がありました。あまり聞くことのない研究生活は生徒にとっても新鮮だったようで、漠然とした研究に対するイメージが上書きされたようです。次に、実際の研究に深い繋がりのある「ホール効果」について、実際に生徒が学校で習ったことのある式を使って丁寧にホール効果の定量化を説明しました。最後に、4つの班に分かれた後、実際にホール素子と自宅から各自が持ってきた磁石を使ってホール効果を測定しました。ホール素子からは4本の端子が延びており、2本はホール電流を流すための電池に繋がっており、もう2本はホール電圧を測定するためにテスターに繋がっています。磁石を近づけるとホール電圧が上がることを実感しました。
特に毛利さんが持参したネオジム磁石は非常に協力で、生徒もその強さに感嘆していました。測定した電圧はグラフ用紙にプロットされ、磁場の強さやホール素子の電子密度などを計算しました。時間の都合で最後まで行けた班は少なかったものの、グラフから数値を求める作業は生徒にとって真新しく見えたようで、楽しく行えたようです。今回の講座は最新の研究と現在の高校物理とを繋ぐ橋渡し的な内容で、それゆえ生徒は今学習していることが将来実際に役立てると学んだようです。現在の学習の復習・実感ができ、さらにはこれからの学習のモチベーション維持にも役立つ授業であったと思います。
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