日時 | 2012/8/31 - 9/1 |
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場所 | 東京大学木曽観測所 |
対象 | 長野県屋代高校二年生生徒37名、および同学校教員2名 |
担当者 | 三戸、深瀬、松岡 |
東京大学木曽観測所で長野県屋代高校二年生を対象に星の教室を開催しました。天体写真を用いて銀河の視角を測定し、地球から銀河までの距離を概算しました。その後、データベースにある銀河の後退速度を用いて距離‐後退速度図を描き、宇宙の年齢について考察しました。
開校式の後、導入の講義として天文学の歴史と実習の概要について説明しました。
次にドームの見学を行いました。ドーム前で記念写真を撮った後、ドーム内の105cmシュミット望遠鏡の見学に移りました。今春、使用開始したKWFC(Kiso Wide Field Camera)を紹介し、つい先日まで使用していた旧型カメラ(2kCCD)の実物を見せてもらいました。生徒は実際に使われていたカメラに見入っていました。望遠鏡や台座についても幾つか質問があり、強い関心を感じました。
実習1では視角、物の大きさ、距離を関連付け、物体の大きさと視角から距離を求める方法について学びました。理解の助けとなるように、実際に人と人との距離を求める実験を行いました。具体的には、デジタルカメラを用いて正面に立っている人の視角を求め、さらに人の平均身長を使ってその人までの距離を計算しました。写真から視角を求めるのに苦労する生徒が幾人か見受けられましたが、実験を通して理解できていたように思います。
実習2では、実習1で学んだ視角と物体の大きさから距離を求める方法を利用して地球から銀河までの距離を計算しました。銀河の視角は、実習1と同様に天体写真から求め、銀河の大きさは天の川銀河の大きさと同じとしました。比較的スムーズに取り組めていたので、実習1が導入として十分な役割を果たせていたのだと思います。
実習3では、実習2で求めた地球から銀河までの距離とデータベースにあるそれぞれの銀河の後退速度を用いて距離‐後退速度図を描き、宇宙の年齢について考察しました。ほとんどヒントを与えなかったにも関わらず、どの生徒も諦めることなく熱心に考察に取り組んでおり、非常に優秀な生徒たちだと思いました。深夜まで取り組んでいる生徒がほとんどでしたが、なかには3時まで考えている生徒もおり、驚くばかりでした。
二日目は昨日に引き続き、宇宙の年齢に関する考察をさらに深めた後、発表に向けての準備をしました。昨日に熱心に考察に取り組んだ甲斐があり、ほとんどのグループはすでに考察を終えており、グループ内でメンバーの理解を深めたり、議論の細かな調整を行ったりしていました。なかにはすぐに発表資料の作成に取り掛かっているグループもあり、例年に比べ非常にスムーズな進行となりました。
発表に関しても生徒間で積極的な質問が飛び交いました。自分のグループの発表内容だけでなく、他のグループの発表内容にも興味を持ち、的を射た質問ができていたと思います。発表が終わりに近づくにつれ、集中力が切れてきたのか質問があまりでなくなったり、声が小さくなってしまったのは残念でしたが、概ね活発に議論できていたと思います。
発表終了後、まとめの講義を行いました。距離‐後退速度図から得られる情報の読み取り、他の銀河から観測を行った場合にどのような結果が得られるかの考察を通して宇宙の年齢を導出する方法を概説しました。最後にEinsteinの考えた宇宙構造についても話しました。
今回の星の教室では、難しい事柄を自分の力で真剣に考える姿勢を学べたのではないかと思います。生徒に書いてもらった感想の中には、「宇宙の年齢を求めると聞いて初めは無理だと思ったけど、簡単な考察を通して求めることができて驚いた。」という意見がありました。難しく考えすぎず、素直に課題に取り組むことも重要なのでしょう。議論が順調に進んでいたので、あまり助言はしないようにしていたのですが、困ったときに話を聞いてもらえたのが議論の進展につながって良かったという意見や、一つの問題を一生懸命考えたのは初めての経験で楽しかったという意見が多かったので嬉しく思います。これからも、あらゆる課題に真摯に取り組み、人とのコミュニケーションを大切にしてもらえることを期待しています。