銀河学校 2014

銀河学校 2014

日時2014/3/25 - 2014/3/28
場所東京大学木曽観測所
対象高校 1, 2 年生 34 名
担当者三戸, 前原*, 酒向*(班長)
飯田, 齊田, 所, 深瀬, 穂坂, 平居*, 加藤*, 谷口*(TA)
(*印は東京大学側のスタッフです)

概要

銀河学校は、東京大学木曽観測所と Science Station が共催する高校生向けの天文学実習です。17 回目となる今回の実習は 3/25 から 3/28 に開催され、木曽観測所の持つ 105cm シュミット型望遠鏡および CCD カメラ “KWFC” を用い、参加生徒が 3 つの班に分かれて天文学の研究を行いました。

木曽観測所の望遠鏡ドーム
木曽観測所の望遠鏡ドーム

以下、その内容をレポートいたします。

A 班: 小惑星の大きさ分布を求める

太陽系には惑星のように太陽の周りを公転しているが、質量が軽いために球形を保つことができずいびつな形をしている小惑星と呼ばれる天体がたくさん存在します。A 班ではこの小惑星に注目し、その検出と大きさ分布の作成を行いました。

まず、A 班の観測は他の班よりも遅い時間でしたので、観測を待つ間に小惑星のみかけの動きについて学び、惑星の軌道と公転周期から小惑星の見かけの移動速度を計算しました。このとき、3 人程度のチームに分かれて計算を行いました。各自の持つ知識や発想を組み合わせて計算を行うことで生徒同士交流でき、とても仲良くなれたようです。

その後、生徒たちはシュミット望遠鏡で小惑星が最も明るく観測できる太陽と反対側の空を約1時間の間隔をあけて観測しました。1 枚目の画像は撮れたのですが、残念ながら途中で曇ってしまい 1 時間おいた 2 枚目は撮れなかったため、事前に観測しておいた予備のデータを解析することになりました。

2 日目から予備観測の 2 枚の画像を用い小惑星の検出を行いました。2 枚の画像を交互に表示するブリンク法や画像データを引き算する差分法で 1 日目に計算した条件に当てはまる天体を探し、撮影間隔の 1 時間における見かけの移動距離から地球との距離を、明るさから大きさを求めました。気の合う仲間との解析作業は楽しかったようでみな笑顔で、笑い声が響いていました。

A 班: 小惑星探しの様子
A 班: 小惑星探しの様子

画像データの解析後は最終目標である大きさ分布を求めました。生徒自ら考えて議論し、距離が遠くなるほどまた反射率が低くなるほど小惑星からくる光が弱くなり小惑星の大きさが小さく計算されてしまうことに気が付いた生徒はその補正法を考え、より正確なデータを求める工夫していました。また、小惑星の大きさおよび距離ごとの検出数のヒストグラムや小惑星の大きさと太陽からの距離の散布図など大きさ分布をわかりやすくするための図を作成したり、小惑星の質量を求めて地球のような惑星の質量と比べたりと自主的に研究を進めていました。発表を終えるころには皆疲れきっていましたが、とても満足そうでした。

生徒たちはこの 4 日間の共同作業でとても仲良くなれたようです。また、観測、解析、発表といった研究の流れを実際にやってみることで天文学について知り、興味を深めることができたのではないかと思います。

B 班: 星雲の色や構造、距離を求める

B 班は、宇宙空間に漂う星雲について研究しました。星雲はどのくらい大きいのか、距離はどのくらいなのかという疑問から研究が始まりました。B 班は M42 および Sh2-311 という 2 つの星雲をフィルタを用いて何種類かの色で観測し観測し、その際生徒全員で代わる代わる望遠鏡の操作を行いました。

観測室でのオペレーション
観測室でのオペレーション

星の色と明るさには関係があります。縦軸に明るさ、横軸に色をとった星の分布図を HR 図といい、この HR 図を作れば星の色から真の明るさが分かり、観測結果である見かけの明るさと比較して星までの距離を算出できることが知られています。そこで、星雲とその周りにある星が同程度の距離にあると仮定し、星雲の周りの星 50~100 個程度について見かけの明るさと色を求める作業を行いました。また私たちが観測した 2 星雲の傾向が他の星雲でも見られるかを確認するため、事前にスタッフが撮像観測をしておいた別の 2 星雲に対する測光も追加で行いました。全部で 4 つの星雲に対して測光したので、時間も手間もかかりましたが、生徒のみなさんは交代しながら頑張っていました。その後測光結果から HR 図を作成しましたが、HR 図を作る際には文献値と比較するため、観測値の補正が必要でした。その観測値の補正作業を理解するのに生徒全員が頭を悩ませ、先生や TA も交えた議論が盛り上がりました。

B 班: 観測結果についての議論
B 班: 観測結果についての議論

そうした苦労を経て、最終的に HR 図を用いて地球から星雲までの距離を算出し、さらに星雲の大きさを求めることができました。どの星雲も、地球からの距離は大体 10 の 3 乗光年程度となりました。また大きさを求めた星雲の最小のものと太陽系の大きさを比較すると、星雲は太陽系の約 3000 倍もの大きさがあることがわかりました。距離の計算には対数などのテクニックが必要で、それらをまだ学校で習っていない生徒さんもいましたが、わからない部分を生徒さん同士で教え合いながら理解を深めている場面も見られました。

研究するにはとても短い期間でしたが、観測から研究発表までを経験し、たくさんのことを学んだと思います。画像を処理したり複雑な計算をしたりなど、大変な作業も多々ありましたが、得られた結果はとても素晴らしいものでした。これからも生徒のみなさんには、天文学に興味を持ち続けてほしいと思います。

C 班: 光にこめられたもう1つのメッセージ

C 班では「偏光」というキーワードで課題研究を行いました。

天文学で観測する光は、波として宇宙から地球に届きます。太陽光のような自然光はすべての方向に振動しており、これを無偏光といいます。反対に人工光や、反射光などはある方向に光の振動方向が偏っており、これを偏光といいます。偏光状態を観測することで、「目に見える情報」から「目に見えない原因」を探ることができます。そこで今回、ある特定の方向の振動成分だけを通す「偏光板」を用いて自ら作成した観測装置を、105cm シュミット望遠鏡に取りつけ、観測と解析を行ってその結果を議論しました。

生徒たちはまず「偏光」を身近に体験するため、偏光板で教室にある様々なものを見た後、「偏光しているもの」と「偏光していないもの」を探し出しました。偏光板に触れるのが初めての生徒も多く不思議がりながらいろいろなものを見ていました。その結果、パソコンのディスプレイなどの人工光、ホワイトボードや眼鏡に映る反射光は偏光していることが分かりました。

その後、作成した巨大な偏光板をシュミット望遠鏡の鏡筒へ取り付けました。生徒たちは所員の方々に操作を教わりながら分担して望遠鏡操作・観測・記録を行いました。そして NGC2024 と呼ばれる星雲とかに星雲と呼ばれる超新星残骸それぞれに対して、4 方向の偏光を観測することができました。

C 班: 偏光フィルタ作り
C 班: 偏光フィルタ作り

データ解析では、まず各角度の星雲の明るい部分や暗い部分を見比べることで、どこで偏光が起きているのかを議論しました。その後、生徒たちはその議論を数値化するために、それぞれの観測データから異なる角度のデータを差し引いたり、星雲の偏光の角度を表す偏光角や強さを表す偏光度を、スタッフ・TA と活発な議論を交わしながら求めました。小さなグループに分かれて深く議論をしたので生徒からいろいろな意見を集めることができました。その結果、星雲の後ろに隠れた光源があることや、偏光の分布から磁場の存在とその方向を知ることができ、「目に見える情報」から「目に見えない原因」を探ることができました。

生徒たちは観測天文学で重要な、「観測装置を自ら工夫すること」「そのデータを余すことなく議論して研究結果を出す」というプロセスを経験することができました。短い 4 日間でしたが楽しみながら取り組んでくれました。これからも天文に興味を持ち続けてくれるといいなと思います。