日時 | 2016/7/29 - 30 |
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場所 | 東京大学木曽観測所 |
対象 | 長野県屋代高校 2 年生の生徒 34 名 |
担当者 | 猿楽、山口、石山、尾上 |
「星の教室」は毎年東京大学木曽観測所で開催されている一泊二日の実習プログラムです。実習では、銀河の見かけの大きさを用いて銀河と我々までの距離を推定します。そして、たくさんの銀河に対する距離測定の結果を用いて宇宙の年齢を推定し、最終的に我々の宇宙の誕生と進化について考察することを目標とします。
1日目は、まず最新の観測結果を交えた天文学の導入を講師が行った後、木曽105cmシュミット望遠鏡の見学を行いました。国内最大級の大型望遠鏡を間近で見た生徒達は、その大きさや望遠鏡を動かした時のドーム全体のダイナミックな動きに驚きの声をあげており、スタッフの説明にもとても興味津々な様子で耳を傾けていました。
見学から帰ってくると、いよいよ実習が始まりました。まずは銀河までの距離を求めるのに重要な「視角」という概念について学びました。そしてデジタルカメラで生徒自身を写した写真を使い、印刷した写真上での自分達の大きさから撮影時のカメラと自分達までの距離を推定することで、視角を使って正しく距離測定をすることができるのかを確かめました。
次に、今度はいよいよ我々と銀河の距離を測ります。銀河の場合、巻尺を使って直接距離を測ることはできませんが、先ほど学んだ「視角」、つまり観測された画像上での銀河のサイズから間接的に距離測定をすることが可能です。実習では、用意された数多くの銀河のカタログを使い、前の実習と同様の方法で生徒達がそれぞれ選んだ銀河の距離測定を行いました。
そしていよいよ得られた銀河の距離から宇宙年齢を求めます。ここでは具体的にどうすれば年齢が求まるのかは説明せず、与えられたデータから生徒達自身が話し合って、自力で宇宙の歴史を紐解いていきます。様々な大きさの銀河の距離と後退速度(銀河から我々から遠ざかっていく速度)の間に関係性を見出すことが大きな鍵なのですが、実際の観測データでは実は様々な要因によって関係性がはっきり見えてこない場合があります。生徒達は、一見何の関係もなさそうにも見えるデータに苦戦しながらも、距離測定を行う銀河サンプルの検討や他と明らかに違う傾向を示す銀河のチェック等を経て何とか両者の関係を導き出し(こういったところは地道で大変な作業ですが、研究者としての腕の見せ所でもあります)、最後にはどの班も実際推定されている値と近い値をはじき出していました。
2日目は前の日に求めた宇宙年齢の測定結果や、そこから考察できる宇宙の歴史について班ごとにまとめ、各班10分ずつの発表会を行いました。各班ごとに年齢の求め方やデータの扱い方などが違う点もあり、生徒同士でお互いの手法について鋭い質問や議論がいくつも出ていました。
今回の実習は短い時間ではありましたが、その中で参加された生徒の皆さんは集中して「答えのない問題に仲間と協力して立ち向かう」、という普段なかなか味わうことのできない体験をしてくれたと思います。こういった経験は研究者でなくとも今後社会に出た時に必ず生きてくると思いますので、ぜひ今回の実習が能動的な問題解決能力を高めるきっかけになればと思います。