島根県立松江北高校 出前授

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時2018/12/7(金)
場所島根県立松江北高等学校
対象普通科理系および理数科の2年生
担当者渥美、田中、森井、沖本、安田、今村、橋立、佐藤、坂井、松沢、臼井、島田、鈴木、谷口

概要

島根県立松江北高等学校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは、

  • 飛行機から学ぶ風の流れ
  • 宇宙の謎に迫るALMA望遠鏡
  • パスタで考える破壊の仕組み
  • 地球の渦巻きを考えてみよう
  • VR・AR・MRの社会的応用
  • パズルで分かる素粒子物理
  • はじめての数理生物学

という7つの授業から1つの授業を選択し、受講しました。 授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1: 飛行機から学ぶ風の流れ

講師: 田中 舞 (早稲田大学 先進理工学部 物理学科 4年)

この授業では、風洞実験装置と呼ばれる風の流れを可視化する装置を用いて風の流れを観測することで、流体(気体と液体の総称)の性質に関する学問分野である流体力学の基礎に触れることを目的に行われました。まず、講師が、高校物理では扱われない流体が、どのような性質を持っているのかを説明しました。そして、流体が物体からはく離することで物体の進行が阻害される現象に着目し、はく離の起こりにくい理想的な飛行機の形状はどのようなものになるのかを考察しました。

講義の様子
講義の様子

実習では生徒は4人ずつのグループに分かれ、機体用の材料4種類、翼用の材料3種類を組み合わせて簡単な木製の飛行機模型を作成しました。完成した模型を風洞実験装置に入れ、実際に機体を取り巻く風の動きを観測しました。それぞれが材料の形状の違いをよく観察して、機体と翼の組み合わせや前後の向き、取り付ける角度がはく離の起きやすさに与える影響について熱心に議論していました。予想した風の流れを紙に書き込んだり、尾翼をつけてみたりと試行錯誤しながら実習に打ち込んでいた様子が見られました。

実験の様子
実験の様子
(記: 松沢)

授業2: 宇宙の謎に迫るALMA望遠鏡

講師: 森井 嘉穂 (九州大学 理学部 地球惑星科学科 3年)

星、惑星、ひいては生命はどのようにして生まれたのでしょうか?誰もが一度は謎に思うであろうこの疑問に答えるべく、天文学者は近年、これまでにない高い性能を持った望遠鏡である「ALMA望遠鏡」を建設しました。ALMA望遠鏡はチリのアタカマ砂漠という標高5000メートルの高地に設置された望遠鏡で、電波と呼ばれる長い波長の電磁波を観測することができます。天文学者はこれまでALMA望遠鏡を用いて数多くの謎を解き明かしてきました。

講義風景
講義風景

この授業では、実際にALMA望遠鏡を訪れて天体観測を行ったことがある講師が、ALMA望遠鏡の仕組みや性能についての解説を行いました。授業中には、ALMA望遠鏡の性能を理解するために、望遠鏡の分解能(どのくらい細かいものを見分けることができるか)の計算を生徒に行ってもらいました。最初は慣れずに戸惑う生徒も多かったですが、例題を用いた丁寧な解説を通じて、望遠鏡の分解能やALMA望遠鏡の性能の高さについての生徒の理解が深まりました。最後にALMA望遠鏡でこれまでに得られた科学成果として、おうし座HL星の周囲にある塵でできた円盤の写真等について紹介したところ、生徒の宇宙への強い関心の様子が窺えました。

計算風景
計算風景
(記: 谷口)

授業3: パスタで考える破壊の仕組み

講師: 安田 優也 (早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科 2年)

この授業では身近な物体に力がかかって2つに分離したり、大きな変形を生じて本来の役目を果たせなくなる「破壊」を例にして材料力学の基礎について考えました。

※材料力学:材料力学の説明は物体にかかる力と変形を考察することで合理的な強度設計を目指す工学

講義内容

講義では、まず最初に例として、今年度起きた台風による災害や阪神淡路大震災地震によって起きた破壊を紹介しました。次に、破壊を起こすような力のかけ方として、曲げる・圧縮する・引っ張る・ねじるの四種類があることを説明し、生徒に細長い円柱状のパスタを渡して実際に破壊してもらいました。そのことを踏まえて、トラス構造と呼ばれる物等、変形にに強い構造等、強い材料とは何かについて講義しました。興味津々な生徒が大勢おり、考察を自主的に進めている生徒達もいました。

講義の様子
講義の様子

実習内容

実習では、生徒を各班4名の5つの班に分け、各班に直径1.8mm、長さ25cmのパスタを40本とグルーガンの芯を3本与えました。グルーガンは棒状の樹脂を熱で溶かして接着する道具でパスタ同士の接着に用います。以上の材料を用いて、それぞれが思う耐久性が高い長さ25㎝、幅5㎝のパスタブリッジを作ってもらいました。実際に作成する前に講義で扱ったトラス構造をどのように用いるかを紙などに書き出して話し合っている班もいました。

作成風景
作成風景
実際作成された橋
実際作成された橋

最後に、パスタブリッジの中心におもりをぶら下げて、その耐久性を調べました。中には講師が作ったパスタブリッジを超える耐久性のある橋を作った班もありました(最高記録は3500g)。

耐久力を試している様子
耐久力を試している様子
(記: 島田)

授業4: 地球の渦巻きを考えてみよう

講師: 今村 春香 (京都大学 理学部 地球惑星科学系 3年)

この授業では地球上にできる渦巻きをテーマとしました。高校物理で習う運動方程式を用いて渦巻きについて記述し、身近な現象と運動方程式で記述される運動を結びつけました。

まず、回転している台の上ではどのような力が働くかについて予想してもらいました。その後実際に回転する台の上に球を転がす実験を行いました。眺めている人にとってはまっすぐ進んでいるように見える球の軌跡が、台の上には曲がった曲線を描くことを確認しました。生徒もこの結果は予想していたようでしたが、実際にその目で結果を確認することができて、驚いている様子でした。この実験を通して回転をする台の上では遠心力とコリオリ力と呼ばれる二つの見かけ上の力があることを実感してもらいました。

また、海水や大気にかかる力を考えるときに重要な圧力傾度力(気圧や水圧等の差によって生じる力)について勉強しました。高校物理では扱うことの少ない分野ですが、天気図やグラフを用いて説明するなどして、生徒にも理解しやすいように工夫しました。

講義の様子
講義の様子

後半では、具体的な例として、つむじ風や台風でどのように力が働くのか考えてもらいました。この時、地球科学の現場ではよく行われるオーダー解析(起こる現象を簡単に予測するための、1か10かを判断する程度の大雑把な計算)の概念と必要性について知ってもらい、実際に計算をしてもらいました。その結果、つむじ風では圧力傾度力と遠心力が重要であるのに対し、台風では圧力傾度力と遠心力に加えてコリオリ力が重要である、というつむじ風と台風の性質の違いが分かりました。

最後に、渦巻きを記述する運動方程式を用いて黒潮の運動についても考えることができることを説明しました。1つの運動方程式によってつむじ風というスケールの小さい現象から、海流という一見渦巻きとは関係のないようなスケールの大きい現象まで表すことができることを勉強してもらいました。この授業が、身近な諸現象を物理的に考えてもらえるきっかけになれば幸いです。

(記: 坂井)

授業5: VR・AR・MRの社会的応用

講師: 渥美 智也 (東京理科大学 理学部第二部 物理学科 4年)

この授業ではコンピュータでプログラミングをしてARアプリケーションを制作することを目的としました。そのために、授業の要の前半は講師が講義をし、後半は生徒に実際に手を動かして作品制作を行ってもらいました。授業には12人の生徒が参加し、「processing」という言語を用いたプログラミングに取り組みました。

導入の講義ではVR(Virtual Reality)・AR(Augumented Reality)・MR(Mixed Reality)の3つについて、それらの定義や3つの違い、歴史といった基礎知識について話しました。またそれらが現実社会でどのように使われているかについても、生徒に質問を投げかけながら説明しました。

講義の様子
講義の様子
講義の様子
講義の様子

後半の実習では、事前に用意しておいたソフトウェアとコードを利用して立方体を回転させる体験を行いました。プログラミングをやったことがある生徒がほとんどおらず最初は大半の生徒が戸惑っていましたが、スライドを見たり質問をしたりしながら作品を完成させました。

今回は時間の都合上立方体を回転させるところで実習が終わってしまいました。そこで、最後にアンケートを記入してもらいながら、立方体に色を付けて回転させるといった少し発展した作品を見てもらいました。生徒たちから「楽しい」「すごい」と言った声が上がったのが印象的でした。

この講義をきっかけに最初のプログラミングに対する難しそう、複雑そうといったイメージが変わって楽しい、面白いと思ってもらえたのではないかと感じました。

(記: 臼井)

授業6: パズルで分かる素粒子物理

講師: 沖本 直哉 (大阪大学 理学部 物理学科 4年)

「パズルで分かる素粒子物理」というタイトルで、素粒子(物質を構成する、これ以上細かく分けられない最小単位をなすと考えられているモノ)の反応を図で表すファインマンダイアグラムの描き方について講義を行い、講義の内容をもとに例題を解く演習を行いました。ファインマンダイアグラムとは、数式で表すと複雑な素粒子の反応を、線と矢印の組み合わせにより簡潔に図で説明できるようにしたものです。今回は紐を使って実際にどのような組み合わせが作れるのかを確認しました。

講義の様子
講義の様子

授業の前半では、まず基本的な素粒子の概念について述べた後に、具体的にどんな素粒子があるのかを簡単に紹介しました。次に、文章や数式で表すと長くなってしまい分かりづらい素粒子の反応を、簡潔に図で表すにはどういう作業を行えばよいのかを、電車での移動という身近な例をもとに解説しました。

発表する生徒の様子
発表する生徒の様子

授業の後半は、ファインマンダイアグラムを作る際の4つのルールを紹介し、それぞれのルールを紹介する度に例題と問題を出題し、それぞれの素粒子を表す紐をパズルのように組み合わせて反応を作る演習を行いました。活発に議論を繰り広げ、意欲的に取り組んでいる生徒が多く、試行錯誤してルールに則った答えを導きだした際に更なる関心を抱いている様子が印象的でした。また、難易度の高い問題にも果敢に取り組み、考えたダイアグラムを黒板で発表する生徒も見受けられました。

(記: 鈴木)

授業7: はじめての数理生物学

講師:橋立 佳央理 (東京大学 理学部 地球惑星物理学科 4年)

この授業では、生物の食べる・食べられる関係における個体数の増減を示したロトカ・ヴォルテラ方程式を例に、生物と数学は全く関係のないものではなく、お互いに結びついた学問であるということを考えていきました。

授業の前半では、人口の推移のグラフが微分方程式と呼ばれる方程式を解くことで得られることを説明しました。説明の後、本来なら大学の範囲の微分方程式の演習問題のうち、高校で習った知識のみで解くことができるものを実際に数式を変形することで解いていきました。はじめのうちは初めて見る微分方程式にとまどう生徒も多かったですが、演習を何問か進めていくことで少しずつ微分方程式を解くことができるようになっていきました。

講義の様子
講義の様子

授業の後半では、前半に行ったように方程式を式変形で解くことにより答えを出す「解析的解法」とは対照的に、具体的な数字を用いた計算で近似的に答えを求める「数値的解法」について考えました。この方法は式変形だけでは解けない微分方程式も近似的な答えを知ることが可能になります。普段生徒は式変形で方程式を解いているため、この方法での解き方に少し苦労していましたが、周りの人と話し合ったりすることで理解を深めていました。

授業の最後には、先ほどの数値的に方程式を解くという方法を応用して、ロトカ・ヴォルテラ方程式という方程式が表す現象をコンピューターでシミュレーションしました。その結果、捕食生物と被捕食生物の個体数の増減をみることができました。

今回の授業で生物と数学にこのような深い関わりがあるということに驚く生徒も多く、学際的に学ぶということの楽しさを伝えることができたのではないかと思います。

(記: 佐藤)

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