-->
講義の様子

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時2019/12/13(金)
場所島根県立松江北高等学校
対象普通科理系および理数科の2年生145名
担当者秋山、小形、岡本、沖本、鹿熊、河村、坂井、島田、鈴木、田中、谷口、照井、松沢、安田

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは

  • パスタで考える破壊の仕組み
  • 数学で解くLights Out
  • 自然現象とモデル化
  • パズルで分かる素粒子物理
  • 遠くて近い、近くて遠い宇宙のハナシ
  • 人は宇宙のすべてを理解できるのか!?
  • 実験誤差との付き合い方?競技科学のはじめの一歩?

という 7 つの授業から 1 つの授業を選択して受講しました。 授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1: パスタで考える破壊の仕組み

講師: 安田 優也 (早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科 3年)

「破壊」とは、身近な物体が力を加えられ、2つに分離したり大きな変形を生じたりして本来の役目を果たせなくなることです。この授業では、破壊を例にして講義と実習を組み合わせて材料力学の基礎について考えました。

※材料力学:物体にかかる力と変形を考察することで合理的な強度設計を目指す工学

講義内容

講義では、まず最初に例として、今年度起きた台風による災害や阪神淡路大震災などの地震によって起きた破壊を紹介しました。次に、破壊を起こすような力のかけ方として、曲げる・圧縮する・引っ張る・ねじるの4種類があることを説明し、生徒に細長い円柱状のパスタを渡して実際に破壊してもらいました。そのことを踏まえて、トラス構造と呼ばれる構造や、変形に強い構造など、強い材料とは何かについて講義しました。熱心に話を聞き考えている様子の生徒が多々いました。

講義の様子
講義の様子

実習内容

実習では、生徒を各班4名の5つの班に分け、各班に直径2.1mm、長さ25cmのパスタを40本とグルーガンの芯を3本与えました。グルーガンは棒状の樹脂を熱で溶かして接着する道具で、パスタ同士の接着に用います。以上の材料を用いて、それぞれが思う耐久性が高い長さ25㎝、幅5㎝の橋(パスタブリッジ)を作ってもらいました。実際に作成する前に講義で扱ったトラス構造をどのように用いるかを紙などに書き出して話し合っている班もいました。また講師からのヒントを聞き考え直している班もありました。

実習の様子
実習の様子

最後に、パスタブリッジの中心におもりをぶら下げて、その耐久性を調べました。中にはTAが作ったパスタブリッジを超える耐久性のある橋を作った班もありました(最高記録は3250g)。

(記: 島田)

授業2: 数学で解くLights Out

講師: 鈴木 萌 (茨城大学大学院 理工学研究科 理学専攻 宇宙物理学コース 博士前期課程2年)

この授業では「Lights Out」というゲームを、大学の数学で習う行列の操作を通してクリアする方法について考えました。

講義の様子
講義の様子

Lights Outとは5×5のマスに配置されたライトをすべて消去することを目指すゲームです。選択したマス及びその上下左右にあるライトの状態を、点灯していれば消灯、消灯していれば点灯と切り替えていきます。

今回はグラフ理論の知識を交えつつ、マスの配置やマスの状態、点消灯の操作をそれぞれ行列と合同式で表し、行列の積と和を組み合わせてクリアを目指しました。

まず行列同士の和、積の計算規則を学びました。まったく新しい計算に戸惑った生徒もいましたが、ベクトルについて学習したことを応用して理解していたようです。その後、掃き出し法と呼ばれる計算テクニックを利用した逆行列の求め方を学び、全員で演習しました。

計算する生徒の様子
計算する生徒の様子

休憩を挟んで2×2バージョンのLights Outを行列で解いていきました。なかには行列の計算に長けた生徒もおり、予想以上に早く終わりました。発展的に五角形型のLights Outに挑戦したり、繁雑なために今回は省略した過程に取り組んだりしていました。

発表する生徒の様子
発表する生徒の様子

授業中から積極的に質問があり、活発な授業になりました。また、より抽象的な話題にも興味をもってくれたようです。

(記: 照井)

授業3: 自然現象とモデル化

講師: 坂井 郁哉 (東京大学 理学部 地球惑星物理学科 3年)

この授業は、自然科学分野で広く用いられる「モデル化」について、演習を通して理解を深めることを目的に行われました。高校で学んでいる物理は質点や剛体、摩擦のない平面など、実際には存在しない理想的な状態を仮定したモデルで議論しています。そのため現実世界での物体のふるまいを正確に予測することは難しいです。しかし、「モデル化」には大きな意味があり、単純化した状況を分析することを通して、現実の対象の大まかな動きの予想をすることができます。

前半では、「モデル化」が用いられる具体例をいくつか紹介した後、現在は否定されている「地球平面モデル」を取り上げました。このモデルは地球を球体ではなく平面だと考えるモデルです。そのため地図などで地球の狭い領域内を考える時には問題が生じず、また分かりやすいため有用となります。ところが扱う領域の規模が広くなると、実際は丸い地球との間に無視できないズレが生じてしまいます。このようにモデルは完璧なものではなく、それぞれが長所と短所を合わせ持つものであることを学びました。また、後半の演習の準備として地震について学びました。高校では地震について詳しく学ぶ機会が少ないため、まず震度とマグニチュードの違い、プレートの概念といった基礎知識から確認しました。

地震波をバネで実演する講師
地震波をバネで実演する講師

後半には、生徒自身が手を動かして地震をテーマにした演習に取り組みました。演習で取り組んでもらったのは、「バネ-ブロックモデル」を用いた南海トラフ地震の周期の計算です。南海トラフ地震は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込み、ひずみが限界を超えた時に大きくずれ動くことで起こります。プレートをバネに繋がれたブロックとみなし、プレートを動かす力をバネの張力、プレートが動き出す時にこの張力が最大静止摩擦力になると仮定しました。導かれた周期と、史実から推定されている周期を比較して、よりそれらの間の差を減らすために、モデルにどのような修正を加えたらよいか考えました。

ワークに取り組む生徒
演習に取り組む生徒

難しい内容の授業でしたが、多くの鋭い質問が飛び交い、生徒達の関心の高さがうかがえました。

(記: 松沢)

授業4: パズルでわかる素粒子物理

講師: 沖本 直哉(大阪大学 理学部 物理学科 4年)

この授業では、「パズルでわかる素粒子物理」というテーマの下、素粒子物理の基本を理解することを目的にパズルを用いて講義と演習を行いました。

授業の前半では、素粒子物理の基本について講義を行いました。講義では、素粒子とはそれ以上分けることの出来ない物質の最小単位であることや、アップやダウンといった素粒子の種類、線と矢印で素粒子同士の反応を表すファインマンダイアグラムという手法などを学びました。

講義の様子
講義の様子

授業の後半では、前半で学んだファインマンダイアグラムを用いて素粒子同士の反応を表す演習を行いました。はじめに、素粒子の反応を表すために必要となる4つのルールを例題を通して学びました。そしてファインマンダイアグラムを用いて素粒子同士の反応を表す練習を、演習問題を解くことにより行いました。授業の最後には、発展的な問題にもチャレンジしました。

演習問題を解く生徒
演習問題を解く生徒

はじめこそは素粒子物理というイメージしづらいテーマにやや困惑している様子の生徒もいましたが、パズルを用いて手を動かしながら問題を解くことで感覚をつかみ、問題をこなすことで理解を深めて行きました。最後には発展的な問題に素早く解答できる生徒も見受けられました。難しいテーマでも、まずは親しむことから始め、本質的な理解へとつなげていくことで興味や関心を深める生徒達の姿が印象に残りました。

(記: 秋山)

授業5: 遠くて近い、近くて遠い宇宙のハナシ

講師: 小形 美沙 (早稲田大学大学院 先進理工学研究科 物理学及び応用物理学専攻 修士2年)

この授業では、宇宙の面白さ、天文学が実は身近な知識で研究されていることなどについて実習を通して実感してもらいました。

前半では天体を観測する時に様々な色(様々な波長の光)を使うことを説明しました。それを踏まえて、光の三原色を使った影絵を作る実習を行いました。影を重ねるのが難しく苦戦した班が多かったですが、上手く影が重なる班があると歓声が上がっていました。

授業の様子
授業の様子

後半は恒星の性質を表す数値となる表面温度や距離、光度、半径、質量などの関係を説明し、実際に計算をしてもらいました。難しい印象を受ける生徒が多くいましたがその計算は高校までの知識でも解けること、そしてその結果でHR図(恒星の表面温度と光度の間の関係を表した図)がかけることを説明しました。

授業終了後には影絵をもう一度やりたいという生徒もいて、宇宙の話に興味・関心を持つきっかけになったのではないかと思います。

影絵
影絵
(記: 田中)

授業6: 人は宇宙の全てを理解できるのか!?

講師: 鹿熊 亮太(東京大学大学院 天文学専攻・宇宙線研究所 修士2年)

本講義では、前半、人間がどう宇宙を理解してきたのかという天文学の歴史についての講義を、班での議論を交えながら行いました。 後半では前半の内容を踏まえながら、“科学とは何か”について考えていきました。

講義の中で、班で行う実習や話し合いと、発表の時間が設けられました。班によって違う視点の考えや試行が見られ、お互いに刺激になったのではないかと思います。特に、科学とは一見関係のなさそうなお題(ガッキーは何故かわいいのか、好きな子の気持ちは理解できるのか)に対して、科学の定義に着目しながらで議論をしてもらう実習はとても盛り上がっていました。

班での話し合いの様子
班での話し合いの様子

宇宙論や分光技術などに関する難しい内容もありましたが、上記のように話し合いや班員で共有する時間が多く取られたので理系分野に苦手意識のある子も楽しむことができたのではないかと全体の様子を見ていて感じました。実際に授業後には、宇宙に関しての知識の有無に関わらず、楽しかったという声が多く聞かれました。宇宙について興味を持ち、普段何気なく使っている“科学”とは何かを考え直す機会になったのではないでしょうか。

講義の様子
講義の様子

(記: 岡本)

授業7: 実験誤差との付き合い方~競技科学のはじめの一歩~

講師: 谷口 大輔(東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 修士2年)

この授業では、実験とその解析における誤差の扱い方について、実際に実験をしながら考察しました。

実験をする時、実験結果から導いた値が理論上期待される値と異なる場合があります。高校生では自分が素人で実験が下手だから値がずれてしまった、このずれはどうしても生じてしまうもので改善の余地はない、などと考えてしまい、誤差を軽視してしまうことが多いと思います。確かに教科書の公式は理想化された条件を全て満たすという前提のもと成り立つものであり、誤差を完全になくすことは困難です。しかし、実際には誤差がどのくらい生じているのかを見積もってその影響を考える必要があります。

授業の様子
授業の様子

そこで今回の授業では、単振り子のひもの長さと周期を測定することで重力加速度を推定し、実験の操作や工夫が実験誤差にどのように影響してくるのかについて考えました。実験を始める前は、慣れない誤差をどう扱えばよいか戸惑ったり、誤差を軽視してしまう様子でした。しかし実際に自分の手で実験してみるにつれ、こんな工夫をすることで誤差を減らせるのではないかという意見が交わされ、各班それぞれに工夫が見られました。楽しんで積極的に実験に取り組んでくれている様子でした。

実験の様子
実験の様子

実験で誤差を完全になくすことはできませんが、誤差は工夫次第で小さくすることができます。今回の授業の経験を活かして、今後実験する際に、誤差の見積もりと誤差をできるかぎり小さくする工夫を議論しながら進めてもらえればと思います。

(記: 河村)

関連リンク