島根県立松江北高等学校 出前授業

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時 2020/12/11(金)
場所 島根県立松江北高等学校
対象 普通科理系および理数科の2年生約150名
担当者 秋山,渥美,田中,照井,丹羽,石川,岡本,河村,中西

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは

  • 計算物理学-コンピューターで物理を解く!?
  • 海を探る眼~鉄マンガン鉱からマグロまで~
  • 天気図解析入門〜天気予報ができるまで〜
  • あなたはインターネットを使って検索できますか?
  • 太陽系の起源に迫る!小惑星探査の魅力

という 5 つの授業から 1 つの授業を選択して受講しました。 授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1:計算物理学-コンピューターで物理を解く!?

講師: 田中 匠 (東京大学教養学部理科一類2年)

この授業では、”物理現象の表現で用いられる複雑な方程式をコンピュータで解く”ということテーマに講義・実習を行いました。

物体の運動を考える際には、物体の加速度と物体にかかる力との間の関係式である運動方程式を解きます。 運動方程式の中には式変形のみでは解けない(解析的には解けない)複雑な運動方程式もあります。 しかし、コンピュータで数値計算を行うことで解析的には解けないような運動方程式でも近似的に解くことができます。 授業ではコンピュータで数値計算する際に出てくる計算誤差等の話題にも触れながら、コンピュータで実際に数値計算を行ってもらいました。

授業では、まず数学的な背景知識について紹介した後に、数値解法手法の紹介を行いました。 次に、実際に紹介した数値計算の手法を用いて、単振り子や二重に重りを繋げた振り子である二重振り子(下図参照)などの物理現象を表す微分方程式を数値的に解く実習を行いました。 一般に数値計算をコンピュータで行うためにソフトウェア等の環境を設定するのは非常に手間がかかります。 そこで今回の授業では、複雑な準備を必要とせずにインターネットのブラウザ上で数値計算のプログラムを実行することができる、Google Colaboratoryというウェブサイトを用いました。 最後に天文学での数値解析の応用例についての紹介を行いました。

授業の様子
授業の様子

二重振り子の運動方程式を数値計算で解く実習では、おもりの位置や重さなどのいろいろなパラメータを思い思いに変化させていました。 実習自体は個人作業ではありましたが、得た発見を周りで共有し合うなど、楽しんでいる様子が印象的でした。

また計算誤差のために計算結果がエネルギー保存則とは明らかに矛盾した挙動を示すようなパラメータを、自主的に発見した生徒もいました。 積極的にパラメータを変えて実行している姿が見受けられ、どの値を変化させたら動きがどのように変化するかなど、自然と頭に入っていきやすかったのではないかと思います。

生徒による二重振り子の解析例
生徒による二重振り子の解析例

方程式の形を見るだけでは思いつかないような点も数値計算を行うことで見えてくることがあります。今後の活動でも本授業で扱った内容を活かしてもらえればと思います。

(記: 岡本)

授業2:海を探る眼~鉄マンガン鉱からマグロまで~

講師: 照井 孝之助 (東京海洋大学海洋資源学部海洋資源エネルギー学科2年)

この授業では音波を用いて海洋の姿を探る仕組みをMicrosoft Excelやプログラミングの実習を通して理解し、実感してもらいました。

海洋では、多量の水により太陽光が散乱・吸収されてしまい、海の奥深くや底を見ることはできません。 では、どのようにして海底の様子を調べているのでしょうか。 実際には、ソナーという装置を用いて、水中を伝播する音波で情報を得ています。 船からソナーで音波を発信し、水中・水底の物体から反射した波を受信するまでの時間を計測します。 水中の音速を別途求めると、計測した時間から物体までの距離(深さ)がわかります。 このようにして最も深い物体の位置を計測することで、海底の地形を明らかにすることができます。

授業の様子
授業の様子

授業では、最初に海の深さ・面積、海底にあるものを予想してもらいました。 そして、音波で海洋の姿を探る仕組みや海洋学の歴史を解説しました。 続いて、福島県沖の日本海溝付近で計測した緯度・経度、算出された海の深さのデータを用いて、Microsoft Excel上でグラフにして航路と海の深さを可視化する実習をしました。 また、ソナーに送る命令信号を実際にプログラミングする実習を行いました。

Microsoft Excelを用いた実習の様子
Microsoft Excelを用いた実習の様子

慣れないソフトの操作に戸惑う様子も見られましたが、授業後に質問に来る生徒も多く、学校ではあまり学ぶことのできない海洋について興味・関心を持ついいきっかけになったのではないかと思います。

(記: 河村)

授業3:天気図解析入門〜天気予報ができるまで〜

講師: 秋山 翔希 (東北大学理学部宇宙地球物理学科地球物理学コース2年)

この授業は、大気の状態を表した図である天気図の読み取りをテーマとして行われました。授業では、過去の気象予報士試験の問題を題材にして演習を行い、気象予報士が天気予報を作成する際に用いる専門的な天気図を解析する方法を学びました。専門的な天気図の読み取りに触れることで、日常生活で目にする天気予報に対する見方を深めました。

授業の様子
授業の様子

授業の前半では、普段から目にする天気予報が、様々な方法で取得した観測データを用いて作成された、数多くの天気図を読み取ることにより作られていることを学びました。また、気象情報がどのように社会に役立っているのかについても触れました。

授業の後半では、気象予報士が実際にどのようにして天気図を読み取っているのかを知るため、必要な知識事項を提示しながら、第54回気象予報士試験の実技試験より抜粋した問題を解いていきました。 

実習の様子
実習の様子

また授業の終盤では、気象学は科学な探求に基づいているものであり、科学(特に物理)と密接な関係性があることを学びました。

演習では、初めは馴染みのない図や記号が多く、少々戸惑いの様子を見せていた生徒もいました。しかし、配られた資料を基に思考を巡らせて自力で正答に辿り着けるよう皆積極的に取り組んでいて、ほとんどの生徒が休憩時間にも自主的に問題を解いていたのが印象的でした。

(記: 石川)

授業4:あなたはインターネットを使って検索できますか?

講師: 渥美 智也 (情報科学芸術大学院大学 修士2年)

この授業では、私たちの理解の範疇をはるかに上回る膨大な量の情報が出回っている現代社会において、それらとどのように向き合っていけばよいのかを、インターネットでの検索をテーマにした実習を通して学びました。

授業の様子
授業の様子

授業の前半では、インターネットで検索することについて、インターネット上の情報にはそれぞれどのような特徴があるのか、どういう点に注意すればいいのかを、書籍やテレビ、ラジオといった他のメディアと比較して学習しました。その上で、情報の取捨選択について、「ロジックツリーで問題を細かく分析し、検索によって得られた情報を5W1Hや適応範囲に注意しつつピラミッド構造を用いてまとめ、結論を導く」というプロセスに従って、実際に「日本における、スマートフォンを持っている高校生の割合は?」という問いの解決に取り組みました。

授業の後半では、発展的内容として、写真に写っている様々なものについて関係する科学的知識を調べるというテーマで検索を行ったり、現在の日本の理科教育の現状についても学んだりしました。そして、講師が製作したアプリケーション「Chierium」を用いた実習にも取り組みました。

実習の様子
実習の様子

欲しい情報を細かく分析して検索するという実習内容に対して、生徒たちはやや苦戦しているようでしたが、普段は行わないような、情報の性質を意識して検索していくことの意義について講義を通して理解を深めていました。

(記: 中西)

授業5:太陽系の起源に迫る!小惑星探査の魅力

講師: 丹羽 佑果 (東京工業大学理学院地球惑星科学系3年)

太陽系がどのようにして形成されたのかを探るうえで、コンドライト質隕石は重要な手掛かりとなっています。 この授業ではコンドライト質隕石の性質や、現在行われているサンプルリターンの例を通して、 実際に行われている研究の内容を学びました。

授業の様子
授業の様子

まず初めに太陽系の起源を知る方法として、理論計算により惑星系の形成シナリオを構築するというものや、太陽系外にある恒星のまわりに原始的な惑星ができつつある領域を観測するという方法に触れました。そこから、理論の構築や観測とは違い手に取って調べる手法であるサンプルを使った分析についての内容に入っていきました。ここではコンドライトと呼ばれる種類の隕石が太陽系形成初期の化学組成や構造をよく保存していることを、その理由とともに学びました。実際にそうしたサンプルを地球外の天体から持ち帰ろうというサンプルリターンミッションについて、現在進行中であるはやぶさ2やOSIRIS-Rexといったプロジェクトがどのように進められているのかを学びました。

授業の後半では、前半の内容を踏まえて、少人数のグループに分かれてそれぞれ独自のサンプルリターン計画を立てる、というテーマでディスカッションを行いました。生徒たちは、どんな天体を目標とするか、そこで何を明らかにするか、そのためにはどのような装置が必要か、といった内容を議論していました。

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

ディスカッションでは、目標となる天体の設定に頭を悩ませる生徒もいましたが、それぞれのグループが活発に議論を重ねていました。彗星のガスや塵のサンプルを持ち帰る、太陽に探査機を飛ばして発電を行う、土星のリングの組成を調べるなど独自のアイデアが多くみられました。

(記: 中西)

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