島根県立松江北高等学校 出前授業

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時 2021/12/10(金)
場所 島根県立松江北高等学校
対象 普通科理系および理数科の2年生約150名
担当者 石川,田中,照井,中野,丹羽,安田,大村,島田,嶋田,妹尾,中西,米村

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは

  • 天文学!?なにそれ?美味しいの?
  • 数値計算で世界を解く!~物理現象から感染症まで~
  • 海を探る眼
  • カードゲームで化学に触れよう!
  • 海洋プレート1億年の旅&深海の火山を見に行こう!
  • パスタで考える破壊の仕組み

という6つの授業から1つの授業を選択して受講しました。授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1:天文学!?なにそれ?美味しいの?

講師: 石川 諒 (東北大学 理学部 宇宙地球物理学科 天文学教室 3年 )

現在、日本各地の大学で天文学を専攻できる一方、高校理科の中でその天文学の初歩に触れる機会はほとんどありません。そこでこの講義では、天文学をよく知らない生徒でも理解が容易な法則から宇宙の巨大なスケールを感じてもらうことを目的に、ハッブル-ルメートルの法則に着目して実際にハッブル定数と宇宙年齢(ハッブル時間)を求めてもらいました。ハッブル定数に関する研究は現在も進んでおり、事前知識を必要とせずにその一端を体験することは、天文学に興味を持ち追究する第一歩として重要と考えられます。

ハッブル-ルメートルの法則:銀河系から離れた銀河ほど速い速度で遠ざかっており、速度は距離に比例するという宇宙膨張に関する法則。距離と速度の関係式の比例定数がハッブル定数で、その逆数のハッブル時間はおおよその宇宙年齢を示しています。

講義の様子
講義の様子

講義冒頭の質問によると、天文学に対してよく知らないという生徒がほとんどでした。まず初めに宇宙におけるスケールの重要さを実感してもらうために、素粒子から宇宙全体までの大きさに関する四択クイズや一般によく知られている天体を例示して、スケールの違いを理解してもらいました。観測事実などのみでは直感的に理解できなかった生徒も、講師が1天文単位を米粒の大きさまで小さくして再度比較したり、宇宙の膨張をレーズンパンを焼く前後に見立てて説明することで次第に納得できた様子でした。 授業ではコンピュータで数値計算する際に出てくる計算誤差等の話題にも触れながら、コンピュータで実際に数値計算を行ってもらいました。

後半の実習では、遠方にある銀河までの距離を見かけの大きさ(視直径)から算出し、公開されている後退速度(遠ざかる速度)のデータと組み合わせて、距離と速度の関係を示すグラフを表計算ソフトを用いて作成しました。視直径を測定する際に、ぼんやりとした境界のどこまでを銀河とするか、非対称な銀河はどのように扱うべきか、といった点などで活発に議論が行われていました。多くの班では5から10個の銀河による解析が完了し、最高では18個の銀河について解析した班もありました。

現在分かっている138億年という宇宙年齢に対して、それぞれの班で200億~900億年という宇宙年齢が求められました。簡単な仮定を置いた上で10個程度の天体から宇宙年齢の大まかな推定ができたことに驚く生徒も見られました。

実習の様子
実習の様子

実際のデータから本にあるようなグラフの再現を行うことで、聞いたり見たりするだけでは理解が難しい事象について確かめることができ、さらに興味が湧いたと思います。また、選択した個別の銀河について興味を持ち、詳細に調べたいという意欲的な生徒もいました。これから一層天文学に興味を持ってくれることを期待しています。

(記: 大村)

授業2:数値計算で世界を解く!~物理現象から感染症まで~

講師: 田中 匠 (東京大学 理学部 天文学科 3年)

この授業では、「微分方程式を使って様々な現象を理解する」というテーマで講義と実習を行いました。

この世界の現象は様々な要因が複雑に影響し合い、そのまま理解することはとても困難です。そこで、現象を運動方程式などの形にモデル化し、それを解くことがあります。ここで重要になるのが微分という考え方です。例えば、物体の位置を時間で微分すると速度に、さらに微分すると加速度になります。そして、この微分を含んだ方程式のことを微分方程式といいます。しかし、この微分方程式のなかには二重振り子やn体問題など、人間の手計算では複雑すぎて解けないものもあります。このような物はコンピュータによる数値計算で近似的に解を求めることができるのです。

授業前半ではモデリングや微分方程式などについての講義を、後半ではコンピュータを使って二重振り子や、感染症の感染者数の数理モデルについて実際に数値計算の実習を行いました。今回は二人一組でコンピュータを使用し、数値計算にはGoogle Colaboratory という、複雑な準備が不要のウェブサイトを用いました。参加した生徒の皆さんのなかには、大学で学習する内容でもあるために少し難しく感じた方もいたようですが、微分を学習された方、されていない方に関わらず、熱心に講義を聞いている様子が見られました。

授業の様子
授業の様子

実習では二重振り子の長さやおもりの重さ、振り子を放す角度などのパラメータを自由に変化させ、奇妙な運動の様子を楽しむと共に、単振り子のような運動の再現にチャレンジしている方もいました。また、感染症の感染者数では感染力の強さ、治りやすさなどをパラメータとすることで、起こりうる様々な推移を再現できました。また、どうすれば感染収束が早くなるか、などについての活発な議論もあり、大いに盛り上がりました。最後には宇宙での天体の動きのシミュレーションなどの実際の応用例の紹介もあり、一層関心が高まったのではないかと思います。

生徒による数値計算実習の様子 (二重振り子)
生徒による数値計算実習の様子 (二重振り子)

これを機に、ただ机に向かってペンを走らせるだけでない方程式の世界に興味を抱くと共に、大学での数学や物理学の学習に期待していただければ嬉しく思います。

(記: 米村)

授業3:海を探る眼

講師: 照井 孝之介 (東京海洋大学 海洋資源学部 海洋資源エネルギー学科 3年)

この授業では、地球表面の約7割を占めながらもまだまだ謎が多い海洋について、今どのような観測が行われているのかを、実際にソナーを用いた装置の製作体験を通じて学びました。

講義の様子
講義の様子

授業の前半では、講師の大学紹介を兼ねて、日本で海洋学を学ぶという選択はどういったものなのかや、実際に行われている海洋探査の手法を、海洋の深さ方向の構造に着目してその区分とともに学んだりしました。また、プレートテクトニクスを中心とした海底地形の成り立ちについても学習しました。

授業の後半では、実際の海洋探査で使われているソナーの原理やそのプログラムについて学習した上で、マイクロコンピュータの一種である「Arduino」を用いたソナー装置の作成に取り組みました。ソナー装置は音波を発して跳ね返ってくるまでの時間を計測し、対象物までの距離を測定するもので、一般には実際に音波を発して受け取る測定部、受信したデータを蓄積する記録部、データをリアルタイムで表示する表示部の3つに分かれていますが、今回はそのうち測定部と記録部を、ブレッドボードと呼ばれる基板にArduinoや音響装置、導線などを繋いでいくことで組み立てていきました。

組み立て体験の様子
組み立て体験の様子

生徒たちは、普段高校の授業ではあまり触れない地球科学の内容や電子工作の内容に対してやや戸惑っている様子でしたが、実際にどの部分がソナー装置でどういった役割をしているかレクチャーを交えつつ組み立て作業を行っていくにつれて、よく内容を理解して楽しく製作体験に取り組んでくれていました。

(記: 中西)

授業4:カードゲームで化学に触れよう!

講師: 中野 尭雄 (東海大学 工学部 材料科学科3年)

講師が高校生の時に作成した有機化学を扱ったカードゲームを高校生に遊んでもらいました。

・Fortuna
有機化合物の炭素の数の多さを競うゲームです。
カードを円環状に裏を向けた状態で並べ、順番にカードを選び中心で表にします。中心にあるカードよりも多い炭素を有する化合物の場合、自分のターンは成功となります。
一方で、少なかった場合は種類が同じ場合を除き失敗となり中心にあったカード全てが自身の持ち札になります。
最終的に持ち札が一番少ないプレイヤーが勝利となります。

Fortunaをプレイする様子
Fortunaをプレイする様子

アイスブレイクのためにこのゲームを二回行いました。 生徒らは初めはルールを把握しきれず、手探りの状態でゲームを行なっていまし た。 二回目ではルールを把握しとても盛り上がった様子でした。

一通りカードに目を通したのち、有機化合物について説明しました。 熱心にメモを取る生徒が多く、カードを手にとって「これが今説明している化合物のことか!」といった反応が見れました。

有機化合物の説明
有機化合物の説明

・ビタミンハンター
ビタミン陣営と紫外線(UV;Ultraviolet)陣営に分かれてお互いの読み合いを行うゲームです。
ビタミンの多くは光(特にUV)で分解されます。
ビタミン陣営はビタミンカード3枚とアミノ酸カード7枚持っています。
UV陣営はUVカード2枚とアミノ酸カード8枚持っています。
ビタミン陣営はカードを伏せた状態でアミノ酸カードもしくはビタミンカードを提示します。
そのカードに対し、UV陣営はUVカードかアミノ酸カードを用いるか選択します。
この時ビタミン陣営はUV陣営のUVカードを避けビタミンカード3枚全てを提示し終わると勝利です。
一方、UV陣営はビタミン陣営に様々な方法で問い、出したカードがビタミンかどうかを探ります。
この時提示されたカードに対してUVカードを被せることができると勝利となります。

生徒同士での言葉での駆け引きや運に全てを任せる戦法等面白いプレーをしていました。 このゲームを2回程度行ったのち休憩時間を設けました。休憩時間もゲームで遊ぶ生徒もいました。 その後、カルタ形式で様々な有機化合物に触れました。講師がスクリーンにカードを提示しそれを探すゲームから始まり、構造のみで、化学式のみでどの化合物かを探してもらう発展的なゲームを生徒たちに触れてもらいました。 家庭科の授業で習ったアミノ酸の知識を用いて物質の名前を呟いている生徒もいました。 最後に時間が余ったので、カードに書かれた情報を元に化合物に関してのクイズを自作してもらいました。

(記: 島田)

授業5:海洋プレート1億年の旅 & 深海の火山を見に行こう!

講師: 丹羽 佑果 (東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 4年)

身の回りで見られる様々な景色は、プレートや地球深部のマントルの動きによって形づくられています。この授業では大学の地球科学専攻で習う専門的な内容や講師が実際に参加してきた深海探査について学び、議論することで地球科学の研究の面白さを体験しました。

講義の様子
講義の様子

授業の前半では、講師が実際に行った日本・海外の色々な露頭(地層が良く見える場所)の写真や最近話題になっていた軽石の話から、そのような景色がどのようにしてできあがったのかを知るための野外調査の基礎や、関東から西日本に見られる縞々の地質がどのようにして形成されたかということについて学びました。その後、ホットスポット火山や日本の火山フロントなどの基本的な火山のでき方について学び、それらの火山とは違う未解明の火山である“プチスポット火山”があることも学びました。

実習の様子
実習の様子

授業の後半では、深海にある“プチスポット火山”を調査するための深海への行き方や海底火山の観察方法、岩石の採取方法や研究方法について少人数のグループに分かれて議論し、全体で各グループでどんな意見が出たかを共有しました。さらに、実際に講師が参加してきた「しんかい6500」による深海探査のお話を聞きました。探査計画の立案では、今実現されているようなアイデアだけでなく、「深海でも耐えられるダイバースーツで海底火山を観察しに行く」、「6000 mくらい伸びるアームの先にカメラをつける」など独自のアイデアも多く見られました。

また授業開始前から机には講師が採取した化石や岩石、深海に持って行って縮んだカップ麺のカップが置かれており、休み時間に生徒たちが興味津々に実際にものに触ったりよく観察したり、講師と置かれているものについて楽しく会話している姿も見られました。

(記: 妹尾)

授業6:パスタで考える破壊の仕組み

講師: 安田 優也 (早稲田大学 創造理工学研究科 総合機械工学専攻 修士1年)

この授業では「パスタで考える破壊の仕組み」というテーマで、パスタで橋を製作し(パスタブリッジ)、 構造による強度の違いや破壊について考えてもらいました。

授業の前半は講義形式で、背景となる材料⼒学の基礎について学びました。
まずは⾝近にどんな破壊があるのか、災害による橋の崩落などの例を紹介しました。
その後、実際にパスタを触ってもらいながら、破壊を起こす4種類の⼒のかけ⽅のうち、パスタは「ねじれ」と「引っ張り」には強いが「曲げ」や「圧縮」には弱いということを実感してもらいました。
さらに、⼒をかけたときの挙動は物質によって異なるということを図や実演を通して説明した後、橋を例として構造によって負荷がかかる位置が異なるということを学んでもらいました。

講義の様子
講義の様子

授業の後半は実習形式で「パスタブリッジ」の設計・製作を⾏いました。
4名または5名の班に分かれ、25 cmのパスタ40本とグルーガンの芯(パスタ同⼠の接着に⽤いるボンド)3本という制約のもとで⻑さ25 cm、幅5 cmの耐久性が⾼い橋を設計し、実際にパスタで橋を作ってもらいました。
どのような構造にすれば強くなるのか、講義の内容や各々の考えを踏まえて活発に議論している様⼦が⾒られました。
製作後、パスタブリッジの中⼼におもりを吊るしていき、何グラムまで橋が壊れずに耐えられるかを競い合いました(最⾼記録:2000 g)。
壊れたパスタブリッジを観察し、どのように破壊したのかや、どうすればより耐久性を⾼められるのかを熱⼼に考えている⽣徒も多く⾒られました。

作成したパスタブリッジ
作成したパスタブリッジ

材料⼒学は⾼校ではほとんど扱われない内容で、最初は少し難しく感じている⽣徒も⾒られましたが、⾃分で構造を考えて橋を製作し耐久性を試すことで、理解が深まったのではないかと思います。

(記: 嶋田)

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