島根県立松江北高等学校 出前授業

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時 2022/12/16(金)
場所 島根県立松江北高等学校
対象 普通科理系および理数科の2年生約130名
担当者 石川,島田,妹尾,照井,中野,米村,大平,嶋田,田中,中西,丹羽

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは

  • 天文学!?なにそれ?美味しいの?
  • X線でみるブラックホール
  • 高校に博物館を作ろう?!-博物館の裏側に迫る-
  • 海を探る眼
  • カードゲームで化学に触れよう!
  • Science Agora ~科学を哲学する~

という6つの授業から1つの授業を選択して受講しました。授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1:天文学!?なにそれ?美味しいの?

講師: 石川 諒 (東北大学 理学部 宇宙地球物理学科 天文学教室 4年 )

今年はサイエンストークのテーマにもなっているジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡での本格的な観測が始まった他、11月には日本では約440年ぶりとなる皆既月食中の天王星食が観察されるなど、天文分野ではホットな話題が尽きません。一方で、天文学に触れるには、大学で専攻する、というのが一般的であり、高校で扱われることは少ないのが現状です。この授業では、天文学における代表的な法則をもとに、宇宙空間の巨大なスケールを実感してもらうことを目的として、ハッブル-ルメートルの法則に着目し宇宙年齢を求めてもらいました。

ハッブル-ルメートルの法則とは、「宇宙のあらゆる方向について、より遠方の銀河ほどより速い速度で遠ざかっていき、その速度は銀河系(天の川銀河)からの距離に比例する」という宇宙の膨張についての法則で、距離と速度の比例定数であるハッブル定数、ならびにその逆数でありおよその宇宙年齢を表すとされるハッブル時間について、現在でも研究が続けられています。

講義の様子
講義の様子

前半の講義パートでは、まず天文学において非常に重要なスケールの概念について、四択クイズや映像を通して、天文学で扱う時間や空間は、普段私たちが暮らしている時間や空間とは比べ物にならない大きさであることを実感してもらったうえで、実習で扱う内容の原理について、銀河までの距離と遠ざかる速度(後退速度)との関係、見かけの大きさ(視直径)から銀河までの距離を算出する方法などを学びました。

実習の様子
実習の様子

後半の実習パートでは、公開されている銀河の画像を用いて見かけの大きさを測定し、後退速度のデータと組み合わせて距離と速度の関係を表すグラフを表計算ソフトを用いて作成することで、実際にハッブル定数、そして宇宙年齢を求めました。講義で学んだ内容をもとにして、銀河までの距離を算出する式を導き、各自で選んだ銀河のデータを用いて解析を行いました。

普段あまり扱わない近似に苦戦する生徒もいましたが、意欲的に解析に取り組み、実際に100億〜1000億年という値を導き出していました。最後には最先端の研究ではどういったハッブル定数の値が導き出されているのかや、その値の表す意味についてなどの解説もありました。インターネット上で誰でもアクセス出来るデータを用いてこうした解析が行えるということで、天文学を身近に感じてもらうことが出来たのではないかと思います。

(記: 中西)

授業2:X線でみるブラックホール

講師: 島田 明音 (愛媛大学 理工学研究科 物質科学専攻 修士1年)

宇宙には様々な天体が存在しますが、中にはとてつもなく高い密度を持ち、光ですら脱出できないような強い重力を持つ天体が存在します。このような天体はブラックホールと呼ばれています。遠くの銀河に存在するブラックホールの中でも特に大きな質量を持つ「超巨大ブラックホール」のまわりで、物質が落ち込んでいく際に円盤状の構造が形成され、銀河自体の明るさに匹敵するような明るさで輝く天体のことを「活動銀河核」と呼びます。活動銀河核の中には、ブラックホール周辺に存在する塵によってブラックホール周辺の円盤からの光が吸収されてしまう、「埋もれた」活動銀河核が一定数存在していると考えられています。

このようなブラックホールを探すため、授業前半ではブラックホールや活動銀河核についての講義が行われました。物理基礎で扱うような、地球上を落下する物体の運動から始まり、ブラックホールの定義や活動銀河核の観測的特性等も紹介されました。後半の実習に大きく関係してくる、活動銀河核からの放射についての講義も行われました。

授業の様子
授業の様子

授業後半では電磁波の一種であるX線の観測データを用いた実習が行われました。どのエネルギーを持つX線がどの程度検出されたのかというデータ(X線スペクトル)を、講師とTAのPCにインストールされているX線スペクトルを解析するためのソフトウェアを用いて解析しました。解析では、観測されたX線スペクトルと、理論的に予想されるX線スペクトル(モデル)とを比較することで、どのモデルを組み合わせれば最もよく観測データを説明できるかどうかを考察しました。具体的には、活動銀河核そのものから放射されるX線スペクトルのモデル、銀河系内の星間物質によるX線吸収モデル、活動銀河核周囲の塵によるX線吸収モデル等を考慮することで、観測した活動銀河核が埋もれているのかどうかを判定しました。

実習の様子
実習の様子

大学以降に触れるような知識や技術も用いた実習であり、参加した生徒の中にはコマンド入力に慣れてない生徒も多く最初は操作に苦労していましたが、解析を進めていくにつれ少しづつ慣れていき、最後には複数のモデルを用いた解析結果より、観測した活動銀河核が埋もれているのかどうかを判定することができました。講師が発見した珍しい特徴を持つ活動銀河核のデータなども解析に用いられ、最先端の研究にも触れることができました。授業の最後には、大学院での研究の紹介なども行われ、進路選択の参考にもなったのではないかと思います。

(記: 田中)

授業3:高校に博物館を作ろう?!-博物館の裏側に迫る-

講師: 妹尾 梨子 (東京大学 理学部 地球惑星物理学科 4年)

松江北高校に「お宝」が眠っている!?その、お宝とはいったい何でしょうか?・・校舎のショーケースの中でホコリをかぶっていた、化石・鉱物標本のことです。今回の授業では、そんな忘れられてしまった標本たちを掘り出し、オリジナルの説明書きを加えて新展示コーナーとして蘇らせました!!

講義の様子
妹尾による講義の様子

標本は、どんなに貴重で、美しい輝きを放っていたとしても、管理する人がいなければその輝きは失われてしまいます。標本を管理し、その価値を世間に伝える役割を担っているのが博物館です。博物館には専門の職員である学芸員が働いています。授業では学芸員のお仕事について学び、標本を魅力的に伝えるための展示製作を行いました。生徒たちは班に分かれ松江北高校の廊下のショーケースに保管されていたアンモナイト、三葉虫、水晶、黄鉄鉱などの鉱物・化石標本に着目し、どのような標本なのか文献を調べながら学びました。その後、標本についての情報を整理し、分かりやすく、魅力的に伝えるための展示案を考えました。画用紙や色紙を用いて、標本が美しくみえるようなセッティングの工夫がみられました。また、ダンゴムシのように丸まって防御姿勢をとる三葉虫をあらゆる角度から観察できるように展示したり、アンモナイトの断面を大きく描き、殻の内部構造について詳しく解説したカードをそえたりと、オリジナルのアイデアを生かした展示になりました。

生徒が製作する様子
生徒が製作する様子

その後、標本についての情報を整理し、分かりやすく、魅力的に伝えるための展示案を考えました。画用紙や色紙を用いて、標本が美しくみえるようなセッティングの工夫がみられました。また、ダンゴムシのように丸まって防御姿勢をとる三葉虫をあらゆる角度から観察できるように展示したり、アンモナイトの断面を大きく描き、殻の内部構造について詳しく解説したカードをそえたりと、オリジナルのアイデアを生かした展示になりました。

生徒が製作した展示
生徒が製作した展示

製作した展示は廊下のショーケースに設置され、授業後も校内で自由に見られるようになっています。鉱物・化石標本を実際に手で触れながら学び、自分たちで展示することで、博物学の面白さを体験することができたのではないでしょうか。

(記: 丹羽)

授業4:海を探る眼

講師: 照井 孝之介 (東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 4年)

この授業では、直接見ることのできない海洋底について、実際に機器を組み立てて観測手法について学んだり、海底地形の成因について考察したりしました。

講義の様子
講義の様子

授業の前半では、実際の映像を織り交ぜながら現在行われている海洋底探査の手法を説明した後、実際にソナーを組み立てて海洋底探査の原理を学びました。ソナーは音波を発してから跳ね返ってくるまでの時間を測定することで物体までの距離を測定する機器です。今回は、ソナーの前で手を動かしたり、物を置いたりしながらデータを取得して、このデータを元にパソコン上でグラフを作成してその波形を確認しました。

授業の後半では、実際の観測で得られた海洋底の地形構造を見て、その地形の成因について考察しました。海洋底には様々な断層が見られましたが、それら一つ一つが正断層であるか、逆断層であるかを調べることで、海洋底全体にどのような力がかかっているか考察しました。

海底地形について考察する様子
海底地形について考察する様子

生徒たちは、普段高校の授業ではあまり触れない地球科学の内容や電子工作の内容に対してやや戸惑っているようでしたが、ソナーによる観測で盛り上がっていたり、ハイレベルな考察を行っていたりと、今回の授業を楽しんでくれている様子でした。

(記: 大平)

授業5:化学のカードゲームで遊ぼう!

講師: 中野 尭雄 (東海大学 工学部 材料科学科4年)

この授業では講師が高校生の時に作成したカードゲームを通して、有機化合物について学んでもらいました。

まずはアイスブレイクとして「Fortuna」というゲームで遊んでもらいました。これはカードを1枚ずつ引いていき、前の人が引いたカードに記された有機化合物の炭素の数と自分が引いたカードの炭素の数を競うゲームです。最初はルールを聞きながら手探りしてゲームを進めていましたが、途中からはとても盛り上がっていました。

このアイスブレイクを通してカードに書いてある有機化合物に一通り目を通した後、有機化合物の種類や特徴について講義がありました。カードに描かれた説明と講義内容を照らし合わせながら、熱心に講義を聞いている姿が印象的でした。

講義の様子
講義の様子

次に「ビタミンハンター」というゲームをしました。これはビタミンのカードとアミノ酸のカードを持った人と、紫外線のカードとアミノ酸のカードを持った人とで1枚ずつカードを出し合い競うゲームです。ビタミン側が出したカードがビタミン、紫外線側が出したカードが紫外線だった場合、紫外線側が勝ちとなります。どのカードを出すか、心理戦の要素も入っているゲームです。講義で「ビタミンは紫外線によって分解される」という説明がありましたが、その内容からゲームの主旨を理解して遊んでいました。

その後はスライドに表示された有機化合物のカードを探すカルタをしました。カルタをしながらその有機化合物に対する説明を聞き、様々な種類の有機化合物に触れました。

実習の様子
実習の様子

ただ楽しく遊ぶだけではなく、カードゲームを通して有機化合物の基本を学べたようでした。 今回の授業は生徒にとっては今後学ぶ内容なので、授業で習うときに今日の内容を思い出してくれると嬉しいです。

(記: 嶋田)

授業6:Science Agora ~科学を哲学する~

講師: 米村 優輝 (中央大学 理工学部 物理学科2年)

この授業では「Science Agora」というタイトルで、科学哲学について学び議論してもらいました。科学哲学とは、「科学とは何なのか」や「科学的な発展とは何なのか」など科学に関わる問題を考察していく哲学の分野です。

授業に入る前に、以下の4つの例に対し科学的な判断と言えるか言えないかを考えてもらいました。

  • 星占いの結果がほとんど的中した。よって占星術は信頼できる。
  • 同じ実験を2回行い、ある物質を生成した。1回目に生成したものは2回目のものと比較して美しかった。
  • 進化論によるとA民族はB民族よりも劣っているといえる。
  • A理論で予測される結果が実験で全く得られない。これは 実験道具の精度に問題がある。

授業の前半は科学哲学に関する講義が行われ、反証可能性・パラダイム論について説明がありました。反証可能性とは「科学とは反証ができるものである」とする理論で、「科学」と「非科学」を分類する基準としてカール・ポパーによって論じられました。パラダイム論はトマス・クーンによって提唱された理論で、科学の発展を「通常科学」の時期と「科学革命」の時期の2つに分けて説明しようとする考え方です。生徒にとってはあまり馴染みのない内容でしたが、真剣に講義を聞いていました。

講義の様子
講義の様子

授業の後半はグループディスカッションと発表をしてもらいました。まずは冒頭で考えた「科学的な判断と言えるか言えないか」というテーマついて再度考えて議論してもらいました。次に以下のテーマについて議論してもらいました。

「従来のA理論に代わって、新たにB理論が現れた。現在100ある事例のうち、A理論で検証された件数は98件だが、B理論はまだ2件しかない。科学理論として有望なのはどちらだろうか?」
1つ目も2つ目も「正解がない」問題で、最初はどう考えれば良いのか戸惑っている生徒もいました。しかし、授業内容を踏まえつつも「自分はこう考える」という意見をお互いに出し合い、徐々に議論が盛り上がっていきました。

グループディスカッションの様子
グループディスカッションの様子

最後に講師から、「正解のない問題について考えることをやめないでほしい」という言葉がありました。今後生きていく中で、正解のない問題に直面することは多々あると思います。今回そういう問題について考えた経験が、今後の人生で少しでも役立ってくれればと思います。

(記: 嶋田)

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