集合写真

銀河学校2022

日時2022/3/26 - 3/29
場所東京大学木曽観測所
対象生徒16名(高校1年生~高校3年生)
担当者上塚*、山岸*、菊地原*、平島*、直川*、嶋田、田中、妹尾、丸山
(*印は Science Station 以外のスタッフです)

長野県にある東京大学木曽観測所にて銀河学校2022を開催しました。

今年の銀河学校は、2019年ぶりに対面で行われました。全国から集まった高校生16人が、木曽観測所で105cmシュミット望遠鏡を用いた天文学観測研究に挑戦しました。生徒はA班とB班の2つの班に分かれ、A班は「星から始める天の川銀河探査」、B班は「天の川銀河 星形成活動の全貌に迫る」というテーマで研究を行いました。弊法人からは4名のスタッフが参加し、3泊4日に渡る長くも短い実習をサポートしましたのでご報告いたします。

講義の様子
講義の様子

A班:星から始める天の川銀河探査

テーマ

私たちは天の川銀河の中に住んでいます。そのため、外から天の川銀河全体の形を眺めることができません。その代わり、天の川銀河は私たちにとって無数の星の集まりである天の川として見えています。では、この天の川の一部を観測して銀河系の形を調べるにはどうすればよいでしょうか?

この班では、様々な星が地球から見て同じ距離に存在する「散開星団」を観測し、星の明るさと色の関係を明らかにしました。また見かけの明るさと星本来の明るさ、距離の関係を議論しました。そしてこの2つの関係を使って、星までの距離を調べました。さらに星の見える方向と距離が分かれば星の三次元的な位置が特定できるため、天の川銀河の形(構造)を調べることができると結論づけました。

日にちごとの報告

1日目の夜は雨となったため、さっそくデータの解析に入りました。事前に班長の方でおこなった予備観測のデータを使って、1次処理を行いました。このデータは、g、r、iバンド(順に青、オレンジ、赤・赤外の光のみを通すフィルターを通った光の波長)でM35、M41、M44という3つの散開星団を観測したものです。

2日目は解析の続きと考察、観測を行いました。解析では、星の明るさを測り、それを元にグラフの作成を行いました。まず星の明るさを測る際のパラメータの設定などについて生徒が議論を行ないました。次に、色指数(g-r)を横軸、見かけの等級を縦軸としてグラフを作成しました。。このグラフに太陽の色指数と本来の明るさを当てはめることで、太陽と同じ色の星が満たす「星本来の明るさと色の関係」が得られました。またこれに加え、見かけの明るさと星本来の明るさと距離の関係を議論しました。生徒自ら、「見かけの明るさは観測者との距離の2乗に反比例する」という回答に辿り着くことができました。

3日目は解析と考察、発表準備を行いました。まず、ここまでで生徒たちが自ら導き出した「星本来の明るさと色の関係」と「見かけの明るさと星本来の明るさと距離の関係」という2つの関係を用いて各星団までの距離を算出しました。次に、得られた結果を人工衛星 Gaia が測定した星団の距離と比較して、結果の妥当性について議論しました。1天体を除き、想定していた誤差の範囲におさまるという素晴らしい結果を得ることができました。

ここまでの解析や考察をもとに、発表準備を行いました。発表の構成を考えるところから、スライドの分担、作成まで生徒が主体的に行なっていました。そして本番では、研究内容を初めて聞く人にもわかりやすいように丁寧に発表をしてくれました。質疑応答においてはB班の生徒やTAからの質問に丁寧に答える姿が印象的でした。

早くも最終日となった4日目は、午前にポスター発表を、午後には閉会式を行いました。聴衆とより近い距離での発表を楽しんでもらえたことと思います。また、閉会式では生徒同士が研究を通して打ち解けられた姿をみることができ、スタッフ一同非常に嬉しく思いました。

(記:丸山)
観測の様子
観測の様子

B班:天の川銀河 星形成活動の全貌に迫る

テーマ

宇宙にあまた存在する銀河を特徴づける指標の一つに、星形成活動があります。宇宙には、1年間で太陽100個分以上もの星を作っているような爆発的星形成銀河から、現在はほとんど星を作っていない静かな銀河まで、様々な銀河が存在しています。星形成活動には、銀河の中の環境を変えるだけの大きな影響力があるため、銀河の進化は星形成活動によって支配されていると言っても過言ではありません。

望遠鏡を使って観測すると、私たちは様々な銀河に対して、比較的簡単に星形成の活発さ(星形成率)を求めることができます。これは、私たちが測定したい銀河の外部から、銀河の全体像をとらえることができるためです。一方で、私たちが住む天の川銀河は、私たちが銀河の内部にいるため、その全体像を俯瞰して見ることはできません。そのため、天の川銀河の星形成率を求めるには、様々な工夫が必要になります。

この班では、天の川銀河内にある複数の星形成領域に対してHαと呼ばれる輝線放射を観測することで天の川銀河全体の星形成率を求めました。観測されたそれぞれの星形成領域の星形成率から銀河全体の星形成率に拡張するために高校生自らが論文や文献を調べながら考え、議論し、天の川銀河全体の星形成率を求めました。

日にちごとの報告

1日目はあいにくの悪天候で、班長から研究テーマの簡単な解説を行なったあとA班同様に予備観測のデータを用い、1次処理を行いました。内容を理解しながら1時間程度で完了し、対面での実習の効果をあらためて感じました。

2日目は夜に綺麗な星空が広がり、1日目にできなかった観測を行いました。あらかじめ定めていた天体の観測が短時間で終了したため、余った時間で予定にはなかったばら星雲を9視野に分割して撮影しました。この画像はTAと班長がモザイク合成し印刷したものを帰りにお土産として生徒に配布しました。

3日目は、これまでの実習で求めた個々の星形成領域の星形成率から、天の川銀河全体の星形成率を求めるため、みんなで読み込んだ論文の記述などをもとに活発な議論が繰り広げられました。午後には口頭発表があり、議論してきたことをみんなで協力してスライドにまとめ、発表しました。

4日目は3日目のスライドをもとにポスター発表を行い、聴衆とのやり取りなどを通して今回の研究の改善点を考えるきっかけとなりました。

(記:直川、妹尾)
口頭発表会の様子
口頭発表会の様子

おわりに

生徒たちは充実した4日間を過ごし、あっという間に終わってしまったと感じているのではないでしょうか。アンケートでは、「研究について班の人と議論するのが楽しかった」「研究することのおもしろさを感じた」「宇宙の研究が簡単でないことが知れて良かった」という声が聞かれました。生徒の皆さんが銀河学校での経験からそれぞれの学びを得て、今後に活かしてくれることを期待しています。

(記:丸山)

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