日時 | 2023/12/16(土) |
---|---|
場所 | くにびきメッセ 小ホール |
対象 | 公開イベント |
担当者 | 波多野, 桑江, 中野, 大平, 妹尾, 大村, 米村, 中西, 遠藤, 二階堂, 村尾, 照井 |
Science Station (以下、SS)では、毎年、島根県立松江北高等学校と連携して「サイエンスカフェ in 松江」というイベントを開催してきました。
このイベントは、松江北高校と SS が共催する形で開催されており、カフェのような場所でお茶をしながらサイエンスについて語らうことを目的とするものです。
今年のサイエンスカフェ in 松江では、SSメンバーによるトークに加え、午前中に小学生を対象としたイベントが開催されました。松江北高校の生徒による LED を用いた工作教室に加え、SS メンバーによるサイエンスショーが開催されました。
午後にはSSメンバー2人がトークを行った他、松江北高校理数科の生徒さんたちが研究発表を行いました。
このショーでは、事前に申し込みいただいた小学校1〜3年生の生徒及びその保護者を対象として、科学の楽しさや不思議さを感じてもらうために行われました。
SSでは松江北高校と共催し、2006年より延べ18回サイエンスカフェ in 松江を開催してきましたが、このようなサイエンスショーの実施は昨年に引き続き2回目の取り組みです。
大平による挨拶・SSについての簡単な紹介に続き、博士役に扮した米村の司会進行と、助手やサンタに扮したSSメンバーにより、空気と音をテーマにした様々な実験を行いながら、解説を加えていく形で進められました。
次に大平より、身近な空気が持つ力をテーマにして、ドライヤーを使って物を浮かせる実験が行われました。輪っか状に繋げた風船を浮かせる実験が行われ、回転しながら浮かんでいる風船に自然と拍手が起こりました。
空気の力と関連して空気の重さについて紹介された後に、遠藤より、マシュマロと膨らませていない風船を入れた容器の空気を抜く実験を行いました。空気を抜くことでどんどん膨らんでいくマシュマロや風船を見ながら不思議そうな声や拍手が起こりました。
次に妹尾より、 音叉とその共鳴を示す実験を行いました。鳴らした音叉を水につけることで振動していることを視覚的に示しました。
次に、桑江より振り子を用いた実験が行われました。棒に異なる長さの振り子が3つ取り付けられた装置を用いて、振り子の長さによって揺れる周期に違いがあり、振り子の揺らし方によって特定の振り子のみを強く揺らすことができることを実演しました。
振り子に関連し、照井より異なる長さのパイプを叩く実験が行われました。叩いた時の音の高さがパイプの長さにより異なることが紹介され、振り子の振動と関連させながら、音が空気の振動であることが紹介されました。
最後に、米村より音を使った実験が行われました。桑江や照井が担当した実験と関連し、異なる量の水を入れた同じ種類のコップを叩くことで、高さの違う音が演奏できることを実演しました。これらのコップを用いて、クリスマスに関連してジングルベルが演奏されました。
終了後は参加してくださった生徒たちにSSメンバーがついて、 実演した実験にふれてもらいました。非常に楽しそうに実験を行い、 目をかがやかせている様子が印象的でした。
参加者は皆興味津々に実験に見入っていました。身近な空気や音をテーマにした構成だったこともあってか、色々な驚きもあったようです。今回のサイエンスショーを機に、科学に興味を持ってもらえればと思います。
我々の住んでいる銀河である天の川銀河には一体いくつの星があるのでしょうか!??
我々が肉眼で見ることのできる星はおよそ8600個ありますが、天の川銀河には1000億(=10^11)個も星があり、そして見える宇宙にある星の数は100垓(=10^22)個にもなります。
本トークでは、松江周辺の地図から徐々に拡大して、宇宙空間に至るまで、そのスケールを実感した上で、それぞれの範囲における星の数の多さを具体的に示しました。しかし、星には、我々が見ることができないものがあります。光の速さは有限であるため、100億光年程度先からきた光しか見ることができません。宇宙背景放射と呼ばれる放射がどの方向を観測しても同じ温度であるため、宇宙は見える範囲で一様であることがわかっています。これを説明するインフレーション理論により、見えない100億光年先より遠くの宇宙には、10^100個以上の数があると推定されています。
生徒たちは無量大数(10^64)と比べての大きさに驚いていました。そして、それだけ広い宇宙では、我々が観測できる範囲の宇宙と、宇宙人が観測できる範囲の宇宙が重ならないため、宇宙人と我々の交信はできないという一つの推論が示されました。
しかし、実際は、我々の住む太陽系近傍の宇宙では生命の誕生する確率がピークになっている可能性があるため、近傍の宇宙で我々の他に生命が生まれる可能性があります。地球以外の生命体を探すために、系外惑星が探査されています。土星の衛星「エンケラドゥス」の地下の海の話をもとに、必ずしもハビタブルゾーンだけを探す必要があるかの議論や、木星の衛星「エウロパ」の話と比較することにより、地球に似た惑星を調査する意味について議論し、地球に生命が発生した理由を探ることの重要性について認識しました。最後に、国立天文台のアストロバイオロジーセンター(ABC)の研究についての話がありました。
トークの後は「土星の衛星の海や大気の状態はどうなっているのか?」、「海ができる熱源はなんなのか」などの質問があり、生徒たちは宇宙や銀河、惑星などについて興味深々の様子でした。
キラル分子をご存知でしょうか?左右の手のように、鏡写しだけれど決して重なり合うことのない性質、キラリティーを持った分子のことです。そのような分子の組の片方をD体、もう片方をL体と表現します。
キラルは、私たちが見ることができないほど、ミクロな分子が持つ性質ですが、実は我々が五感で感じることができる、マクロな現象として観察することができます!
このトークでは、スケールを超えるキラルの面白さと奥深さを、さまざまな実験を通して、五感を通して感じてもらいました。
まず、2枚の偏光板とよばれるシートを用いた実験を行いました。我々が目でみている光は、横波の性質を持っていて、その波の方向が特定の方向に偏った光のことを偏光といいます。偏光板は、特定の偏光を持った光子を選択的に通す素子のことです。この光を通す角度を偏光角と言います。
この2つの偏光板を、甘いグルコースをいっぱいに溶かした水を入れた水槽に挟む実験を行い、水槽と偏光板を通った光の強度を観察した結果、光の偏光が変化する、旋光という現象が起こっていることを確認しました。このマクロな現象である旋光を起こす物質には、ミクロな性質である分子のキラリティがあることが知られています。
グルコースがキラリティを持つのはなぜなのでしょうか。それは、結合している物質が全て異なる炭素原子、不斉炭素原子を持っているからということを、高校で学ぶ化学式を用いて説明しました。
キラリティを持つ分子を鏡写にした分子は、融点、密度、電気抵抗といった旋光角以外の物理的なパラメータは変わらないことが知られていますが、実は、人体がどう反応するかの性質、生理的性質が異なります。
講演者はキラリティを持つ分子、D-グルタミン酸と、それを鏡写にした物質L-グルタミン酸を用意して、実際に高校生になめてもらいました。するとL体グルタミン酸は、うまみを感じるが、D-グルタミン酸は全く旨味を感じず、むしろ酸っぱい、ということがわかりました。この結果を応用して、アリスが迷い込んだ鏡の国でご飯を食べると、食べ物の味が変わるだろう、という趣のある推論を紹介しました。
しかし、物質を鏡写しにしても味が変わるだけだ、と侮ってはいけません。キラリティを持つR-サリドマイドという薬を鏡写しの物質にすると、奇形性という極めて危険な性質を持つ物質になることを説明しました。
このようにL体とD体の片方だけの物質を合成することは人間にとって極めて重要です。しかし、人間が工夫することなしにアミノ酸を合成すると、L体とD体が同数だけ合成されてしまいます。一方で、天然に存在するアミノ酸はそのほとんどがL体であり、どのようにその存在比が偏ったのかが未解決な大きな問題として認識されています。講演者は、ノーベル賞を受賞された野依博士がキラリティを持つ分子の片方だけを選択的に合成する方法を開発したことと、人間の介在なしに存在比が偏る理論的な仮説があることを紹介し、この問題が解決される可能性を示しました。
質疑応答では、L体のアミノ酸がD体のアミノ酸に比べて多いのは地球だけなのか、という質問がありました。講演者は、それがほとんどわかっておらず、はやぶさやはやぶさ2が採集する小惑星の岩石の解析をすることで、部分的にそれに答えられるかもしれないと答えました。生命の起源にも迫るような本質的な議論が生徒と講演者の間で交わされ、質疑応答が大いに盛り上がりました。
本イベントは島根県立松江北高等学校と共催で行い、同校の先生方に多くのご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。