島根県立松江北高等学校 出前授業

島根県立松江北高等学校 出前授業

日時 2023/12/15(金)
場所 島根県立松江北高等学校
対象 普通科理系および理数科の2年生約150名
担当者 中野, 大平, 妹尾, 照井, 大村, 米村, 波多野, 桑江, 中西, 遠藤, 二階堂, 村尾

概要

島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは

  • 高校に博物館を作ろう?!-博物館の裏側に迫る-
  • 海を探る眼
  • Science Agora ~科学を哲学する~
  • カードゲームで化学に触れよう!
  • 星間分子で探る
  • ゲームを通して学ぶ統計力学

という6つの授業から1つの授業を選択して受講しました。授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。

授業1:高校に博物館を作ろう?!-博物館の裏側に迫る-

講師: 妹尾 梨子 (東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 修士1年)

松江北高校に「お宝」が眠っている!?その、お宝とはいったい何でしょうか?・・

校舎のショーケースの中でホコリをかぶっていた、化石・鉱物標本のことです。
今回はそんな忘れられかけた標本たちを選び出し、生徒によるオリジナルのラベルと説明パネルを加えることで博物館さながらの新展示として蘇らせました。

講義の様子
妹尾による講義の様子

標本はどんなに貴重で価値があるものであったとしても、日々管理して維持する人がいなければその価値は失われて時に存在さえ忘れられてしまいます。そこで標本を管理してその価値を世間へ、延いては後世へと伝える役割を担っているのが全国各地の博物館に勤務している学芸員です。今回は標本を魅力的に伝えるための展示製作を実際に行うことで、学芸員の仕事に触れてもらいました。まず生徒たちは班に分かれ、松江北高校の廊下のショーケースに眠っていた霰石や方解石、蛍石といった鉱物標本、ウニやブナの葉などの化石標本について、既存のラベルや文献を使うことで展示に必要な情報を収集しました。

生徒が制作に向けて意見を出し合っている様子
生徒が制作に向けて意見を出し合っている様子

続いて標本についての情報を整理し、標本の魅力を伝えるための展示方法を考えました。画用紙や色鉛筆を用いることで、標本そのものを美しく見せるとともに、生徒自身が考えた標本同士の関係性を分かりやすく伝えようという創意工夫が随所で見られました。化石の展示において自分たちの選んだ標本が同一の地質年代に堆積したものであることが一目で分かるパネルを制作した生徒たちや、鉱物の展示においては不純物が含まれると鉱物の色が変化することに着目してその色変化を示すパネルを制作している生徒がいました。その他の生徒もそれぞれがオリジナルのアイデアを存分に生かして見事な展示を作り上げました。

生徒が制作した展示
生徒が制作した展示

今回の授業で生徒たちが制作した解説パネルなどは実際に廊下のショーケースに展示され、誰もが見られるようになっています。鉱物・化石標本を実際に手で触れながら学び、自分たちで展示を作り上げることで、学芸員が行っている業務の魅力と重要性を体験することができたのではないでしょうか。

(記: 村尾)

授業2:海を探る眼

講師: 照井 孝之介 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 修士1年)

本授業では、直接観察することが困難な海底地形の測量方法として音響を取り上げ、実習として簡易ソナーを組み立てることで、その手法について学びました。また、実際の現場で取得されたデータから海底断層の成因について考察しました。

講義の様子
講義の様子

授業の前半では、現在の海底探査の手法を説明した後、海底探査の一手法であるソナーを組み立て、体験を通じてその原理を学びました。ソナーは発した音波が戻ってくるまでの時間を測定する装置です。広い幅や内部まで測定できるものがあります。今回は、測定の幅が狭く、物体の表面で音波が返ってくる単純なソナーを用いて、測定方向に物体を置いたり、動かしたり、機材自体を多方面に向けるなどしてデータを取得しました。さらにパソコン上でそのデータからグラフを作成し、ソナーの機能を確認しました。加えて実用的な内容として、組み立てた簡易ソナーから観測機器へ進化させる方法を紹介しました。

ソナー実習の様子
ソナー実習の様子

授業の後半では、実習の用意としてプレートの運動と断層の形成について触れました。実習では海洋底観測データから、その地形の成因について考察を行いました。今回実習で用いた海域には多くの断層が見られましたが、生徒は図中に見られた断層が逆断層であるか、正断層であるか考え、海洋底の地形成因に理解を深めました。

生徒たちは、ソナーの組み立てに少々手こずっていましたが、測定実験では盛り上がっており、データ解析でも積極的に教えあう姿が見られました。また、海洋底の地形に関する実習では、意見が被っている人がほぼいなかったということもあり、楽しそうに議論を交わしていました。ました。その結果から、観察した地域の海洋底にどのような力がかかっているか考察しました。

(記: 二階堂)

授業3:Science Agora ~科学を哲学する~

講師: 米村 優輝 (中央大学 理工学部 物理学科3年)

この授業では「Science Agora」というタイトルで、科学哲学について学び議論してもらいました。科学哲学とは、「科学とは何なのか」「科学的な発展とは何なのか」といった科学に関わる問題を考察していく哲学の分野です。

授業に入る前に、以下の4つの例に対し科学的な判断と言えるか言えないかを考えてもらいました。

  • 星占いの結果がほとんど的中した。よって占星術は信頼できる。
  • 地球生命の誕生について、進化論だけでなく創造論も学説として認めるべきだ。
  • 同じ実験を2回行い、ある物質を生成した。1回目に生成したものは2回目のものと比較して美しかった。
  • A理論で予測される結果が実験で全く得られない。これは 実験道具の精度に問題がある。

授業の前半では科学哲学に関する講義が行われ、反証可能性・パラダイム論について説明がありました。反証可能性とは「科学」と「非科学」を分類する基準として「科学とは反証ができるものである」とする理論で、カール・ポパーによって論じられました。パラダイム論はトマス・クーンによって提唱された理論で、科学の発展を「通常科学」の時期と「科学革命」の時期の2つに分けて説明しようとする考え方です。生徒らにとってはあまり馴染みのない内容でしたが、真剣に講義を聞いていました。

講義の様子
講義の様子

授業の後半はグループディスカッションと発表をしてもらいました。まずは冒頭で考えた4つの例について、再度科学的と言えるかどうかを考えて議論しました。その後、以下の2つのテーマについて議論を行いました。

「従来のA理論に代わって、新たにB理論が現れた。現在100ある事例のうち、A理論で検証された件数は98件だが、B理論はまだ2件しかない。科学理論として有望なのはどちらだろうか?」
「20XX年、現実と区別がつかないほど完全なVR技術が開発された。さて、このVRによって作り出される世界を『現実』として考えても良いのだろうか?」
1つ目も2つ目も「正解がない」問題で、難しいテーマ設定でしたが、生徒らは授業内容を踏まえながら「自分はこう考える」という意見をお互いに出し合い、活発に議論に取り組んでいました。

グループディスカッションの様子
グループディスカッションの様子

最後にまとめとして講師から、「自分は文系・理系だから…という理由で学ぶことをやめないでほしい」とのコメントがありました。高度に複雑化していく世の中で、一つの対象について様々な視点からアプローチしていくことが求められているなか、この授業が生徒たちが広く物事に興味を持って学習に取り組んでいくことの一助になっていればと思います。

(記: 中西)

授業4:化学のカードゲームで遊ぼう!

講師: 中野 尭雄 (放送大学 教養学部 教養学科3年)

この授業では講師が高校生の時に作成したカードゲームを通して、有機化合物について学んでもらいました。

まずはアイスブレイクとして「Fortuna」というゲームで遊んでもらいました。これはカードを1枚ずつ引いていき、前の人が引いたカードに記された有機化合物の炭素の数と自分が引いたカードの炭素の数を競うゲームです。最初はルールを聞きながら手探りしてゲームを進めていましたが、途中からはとても盛り上がっていました。

このアイスブレイクを通してカードに書いてある有機化合物に一通り目を通した後、有機化合物の種類や特徴について講義がありました。カードに描かれた説明と講義内容を照らし合わせながら、熱心に講義を聞いている姿が印象的でした。

講義の様子
講義の様子

次に「ビタミンハンター」というゲームをしました。これはビタミンのカードとアミノ酸のカードを持った人と、紫外線のカードとアミノ酸のカードを持った人とで1枚ずつカードを出し合い競うゲームです。ビタミン側が出したカードがビタミン、紫外線側が出したカードが紫外線だった場合、紫外線側が勝ちとなります。どのカードを出すか、心理戦の要素も入っているゲームです。講義で「ビタミンは紫外線によって分解される」という説明がありましたが、その内容からゲームの主旨を理解して遊んでいました。

その後はスライドに表示された有機化合物のカードを探すカルタをしました。カルタをしながらその有機化合物に対する説明を聞き、様々な種類の有機化合物に触れました。

カードゲームを用いた実習の様子
カードゲームを用いた実習の様子

ただ楽しく遊ぶだけではなく、カードゲームを通して有機化合物の基本を学べたようでした。
今回の授業は生徒にとっては今後学ぶ内容なので、授業で習うときに今日の内容を思い出してくれると嬉しいです。

(記: 桑江)

授業5:星間分子で探るクールな宇宙

講師: 大村 充輝 (九州大学大学院 理学府地球惑星科学専攻 修士1年)

宇宙には様々な天体が存在しますが、中には我々の目に見えない、さまざまなガスや塵があつまった雲のような形をした天体があります。このような天体は、分子雲とよばれています。分子雲は、太陽をはじめとした星が形成される現場と考えられており、星の形成を考える上で重要です。分子雲は目では見えませんが、電磁波の一種である電波を放出することが知られており、望遠鏡を用いた電波観測により、我々が欠かせない水や酸素分子をはじめとした、200種類以上の分子がみつかっています。

そのなかでも分子雲で最初に見つかった分子が、アンモニア分子です。アンモニア分子は、量子力学的な効果により、特定の周波数の電波を複数種類放出しています。それらは輝線といいます。異なる輝線同士の強度比から、分子雲を特徴づける大事な物理量である、分子雲の温度を推定することができます。

このような分子雲の温度を推定するため、授業前半では、分子雲の特徴とアンモニアが放出する電波についての講義が行われました。アンモニア分子が出す電波は、反転遷移と呼ばれる現象により放出されるもので、YouTubeの動画を交えて、見ている電波がどういった性質のものなのか理解を深めました。

講義の様子
講義の様子

後半では、実際に電波望遠鏡によって取得された観測データを用いた実習を行いました。どのエネルギーを持つ電波がどの程度検出されたのかというデータ(電波のスペクトル)を紙に印刷し、ものさしを用いて、異なる輝線同士の強度比を求めました。この強度比から、量子力学や統計力学から導出される式を用いて、分子雲の温度を計算しました。その式は、大学で学習する高度な物理を用いて導出される複雑な式ですが、要素を分解すると、高校の高学年で学ぶ指数関数や自然対数で構成されるため、それらが扱えるgoogle spread sheetで計算を行いました。それでもできない一部の計算はDesmosという計算ソフトで行いました。

その結果、分子雲の温度はすべての班で、約 15 ケルビンと求められました。これは摂氏約-260度で、その後生まれる数千度もある熱い星に比べて、非常に冷たい環境であることがわかりました。

講義の様子
講義の様子

大学以降に触れるような知識や技術を用いた実習であり、参加した生徒の中には、普段の授業で見る以上に複雑な式を正確に入力するのに苦労しましたが、式を順番に確認して進めた結果、正しく温度を推定することができました。計算過程を細かく確認することも研究を行う上で重要であり、最新の科学を知る以外にも新しい学びを得ることができました。

(記: 波多野)

授業6:ゲームを通して学ぶ統計力学

講師: 大平 達也 (京都大学 理学部 2回)

この授業では「ゲームで学ぶ統計力学」というテーマで講義と実習を行いました。高校物理では物体に働く力を考え、運動方程式で表してそれを解くという勉強をしますが、統計力学では非常に多くの分子の系を扱うので一つ一つの分子の運動を表していくことはできません。

授業の様子
授業の様子

今回は非常に多い分子を少ない量で実験を行って統計力学の気持ちをわかるようになるという目標に向け、分子が衝突することでエネルギーをやり取りする様子をモデル化した統計力学ゲームを行いました。

実習の様子
実習の様子

まず、6人グループ内でそれぞれに1〜6の番号を割り振り、サイコロを振って出た目の人が一枚ずつおはじきをもらいます。それを30枚のおはじきが無くなるまで繰り返しました。これがエネルギーの分配となります。

次に、①サイコロを振って出た目の人がおはじきを1枚出す②もう一度サイコロを振って出た目の人は①で出されたおはじきを貰う、というのをできるだけたくさん繰り返します。実習に移る前に、確率分布はどうなるのか予想をし、それぞれのグループに予想を聞きました。どのグループも、最終的に均等に分配され、1人5枚に落ち着くという予想をしていました。実際に行ってみると、予想に反して均等にはならず0枚になる人、15枚以上も持つ人とおはじきの個数にバラ付きが出たことで「均等になるはずだ」という思いから、休み時間にも続けて実習を行うほどの盛り上がりが見られました。実習を終えた後は、試行回数を増やしたシミュレーションの結果を比較し、実習の時間を長くしたらどう結果が変わるかを考えました。その結果を統計力学では等重率の原理といいます。最後に行ったカノニカル分布の話は高校生にとって少し難しかったようですが、理解したいという意欲をバネに今後物理をより一層楽しんでもらえれば嬉しく思います。

(記:遠藤)

関連リンク