日時 | 2023/3/27 - 3/30 |
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場所 | 東京大学木曽観測所 |
対象 | 生徒18名(高校1年生~高校3年生) |
担当者 | 高橋*、森*、近藤*、山岸*、新納*、舩越*、島田、田中、大村、石川、遠藤、大平 (*印は Science Station 以外のスタッフです) |
長野県にある東京大学木曽観測所にて銀河学校2023を開催しました。
全国から集まった高校生18人が、木曽観測所で105 cmシュミット望遠鏡を用いた天文学観測研究に挑戦しました。生徒はA班とB班の2つの班に分かれ、A班は「塵に隠された『本当の』星形成活動を明らかにせよ」、B班は「銀河の来歴調査」というテーマで研究を行いました。弊法人からは6名のスタッフが参加し、3泊4日に渡る長くも短い実習をサポートしましたのでご報告いたします。
宇宙の中でも華々しい領域の1つに大質量星形成領域が挙げられます。大質量星(太陽質量の8倍より重い星)は、その強力な紫外線により、電離領域と呼ばれる電離したガスの領域を周囲に形成します。この電離領域は、散光星雲としてしばしば観測され、オリオン大星雲、ばら星雲、北アメリカ星雲などがそれに当たります。
天文学の現場においては、よく可視光線に見られるHαという水素ガスの輝線の明るさを測定し、大質量星形成領域における星形成活動の活発さ(星形成率)を推定するという手法が使われます。しかしこの方法には大きな弱点があります。それは、宇宙に漂う塵の存在です。宇宙空間中の塵は、可視光線を吸収・散乱してしまうため(これを減光といいます)、天体から観測者に光が届くまでの間に、光が大きく減ってしまいます。そのため減光を正しく考慮しなければ、Hαの明るさは過小評価され、結果的に星形成活動の活発さを見誤ってしまうことになりかねません。この班では、銀河系内で有数の大質量星形成領域であるオリオン大星雲を観測します。Hα、Hβという水素ガスから出る2つの輝線を観測し、それらをうまく組み合わせることで減光の補正を行い、塵の影響を取り除いたHαの明るさを求めます。これらのデータをもとに、オリオン大星雲における「本当の」星形成の様子を明らかにしましょう。
1日目は観測をする予定でしたが天気が悪く、また、観測対象がオリオンであり早く沈んでしまうので撮影できませんでした。ドームから戻り、今回のテーマ・その基礎知識についての勉強を進めました。最後に翌日から使用する予備観測データについて簡単に触れ、どのような解析を行うのかの確認を行いました。
2日目は朝から解析を行いました。M42をターゲットとした予備観測データのうち、用いる輝線・フィルターの有無から4グループに分かれ、データ処理を始めました。一次処理の後、班長が事前に用意していたスクリプトを用いて全領域を結合したデータを作成し、データそのものについても議論しながら解析を進めました。中間発表では、異なる解析を行っていたB班の人に対して、いかにして容易で正確に伝わるかを考えながら、現在の進捗を報告することができました。また、前日は天候不良のために実施できなかった観測に再挑戦しました。本日は班長による観測レシピを用い、解析を進めているM42とは異なり、その隣に位置するOrion B領域の観測を行いました。観測終了後から解析を再開し、最終的に視野全体での星形成率を求めることができました。作業工程が多く、また観測による中断を挟む忙しい一日の中で集中して取り組んだ成果が出たと思います。
3日目は前日求めた減光マップや星形成率を元に班で議論しました。得られた結果にどれほどの妥当性があるのかを考えるために、過去にオリオン大星雲に対して星形成率を求めた文献があるか、観測したHα、Hβ線以外にどのような輝線が利用可能であるかを調べていきました。その結果、今回とは異なる方法で計算された星形成率と概ね一致することが分かりました。また、オリオン大星雲に対する分光観測からHαに近い周波数に[NII]の禁制線が存在し、今回の観測結果に影響している可能性が指摘されました。このような影響をなくし、より正確な星形成率を導出するために高い準位の遷移に注目するという今後の展望も発見しました。 ここまでの結果・議論を踏まえて、午後の発表のためにスライドを作成していきました。発表の構成を班全体で共有したことで、担当に分かれて作業をしている間も他のスライドとの関連を意識して意見交換しながら内容をまとめることができました。発表本番では、初めて聞いた人にも納得できるように分かりやすく、熱心に発表する姿が印象的でした。オンラインで視聴した人からも質問が出るなど、とても興味深く素晴らしい研究発表になりました。 ポスター発表では、解析手法の細かい点などについても質問を受け、活発に議論が行われました。あまり経験したことがない形式での発表で慣れない点もあったかもしれませんが、自信を持って質問にも対応することができました。
4日目は、班全体でのまとめを行いました。班長から、銀河学校でやってきたことは高校生のレベルをはるかに超えて現役の天文学者が考えるレベルの研究であったとカミングアウトされました。その事実に驚きつつも、ハイレベルの実習をやり遂げたことは生徒の皆さんにとって大きな自信になったのではないでしょうか。
この宇宙には様々な銀河が散らばっています。私たちの住む天の川銀河のような円盤銀河だけでなく、楕円銀河やレンズ状銀河、矮小不規則銀河など、その姿も様々です。実は異なる姿を持つ銀河は現在に至る形成の歴史も異なっていると考えられています。様々な姿を見せる銀河たちはどのように生まれてきたのでしょうか。この研究テーマでは多様な形態をもつ銀河を複数の色フィルターを用いて多色撮像することによって、様々な銀河の形成の歴史を調べます。個性豊かな銀河たちの来歴に迫りましょう。
1日目は悪天候でしたが夜にはなんとか晴れ上がり、無事観測を行うことができました。自分たちで作成したレシピで撮像した銀河の画像を確認できたときは盛り上がった様子が見られました。
2日目では前夜に撮影した観測データの解析を行いました。観測対象の銀河を分類を試み、撮像された銀河の腕の有無やバルジと銀河自体の大きさ(長半径)の比率に注目しました。中間発表会を通して明らかとなった疑問点を全員で共有した後も、銀河と標準星の測光を行うことで色等級を求め二色図にプロットするなど、夜遅くまで白熱した議論が続き、翌日の研究発表会に備えました。
3日目は、典型的な銀河のモデルとの違いに気づき、このモデルとの整合性を取るため、星間塵の影響を考慮することに気づきました。A班の研究を応用できることに気づき、A班の解析のための資料や、高校生には難易度が高い文献にも挑戦した結果、観測した銀河が既存のモデルと精度よく一致する結果を得ることができました。午後には口頭発表・ポスターセッションがあり、議論してきたことを全員で協力してスライドにまとめ、発表しました。質問も活発に行われ、非常に充実した発表となりました。
生徒たちは充実した4日間を過ごし、あっという間に終わってしまったと感じているのではないでしょうか。アンケートでは、「普段とは違って経験を通して、天文学に対する認識や意識が大きく変わった」「TAに質問しやすく、また学生同士で議論できて楽しかった」「これからの勉強のモチベーションになった」「星や銀河がもっと好きになった」という声が聞かれました。生徒の皆さんが銀河学校での経験からそれぞれの学びを得て、今後に活かしてくれることを期待しています。