日時 | 2023/ 9 / 29 - 30 |
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場所 | 東京大学木曽観測所 |
対象 | 長野県飯山高校2年生の生徒 30 名 |
担当者 | 新納*、有馬*、前田*、大村、森、近藤* (*印はScience Station以外のスタッフです) |
生徒たちの来所後、講師の新納先生による開校式と副講師の有馬先生による講義が行われました。講義では、木曽観測所のシュミット望遠鏡とTomo-e Gozen、それを用いた最新のサイエンスについて紹介していただき、今回の実習のテーマ「宇宙の年齢を求める」に関連して、宇宙で用いる単位や銀河の大きさ・形状などの特徴についても解説していただきました。
次に、観測ドームへ移動して望遠鏡の見学を行いました。105cmシュミット望遠鏡を近くで見るだけでなく、木曽観測所スタッフの近藤さんに望遠鏡の解説をしてもらい、実際に望遠鏡とドームを動かすデモンストレーションを目の当たりにして、生徒たちは興味深く観察していました。
ドーム見学から戻り、実習を開始しました。はじめに視角の概念を学び、視角と距離の数学的関係についての理解を深めるために、写真撮影を通した実験を行いました。実験では、デジタルカメラで撮影したポールの写真からカメラ固有の視角を計算し、さらにその視角を参照して遠くに立つ人の視角を測定することで、立っている人までの距離の計算を行いました。また、巻尺で測定した距離との比較から、実際の距離からのずれの大きさとその原因についての考察を行いました。距離を計算する上で用いた仮定によるずれだけでなく、他の要因によるずれが見つかった班もあり、各班で得られた結果に対する評価に取り組んでいました。
次に、銀河データベースから15個の観測データを入手して、前の実習で行ったカメラと人を対象とした計算を銀河に適用することで、それぞれの銀河までの距離を計算しました。また、データベースに記録されている銀河の後退速度と組み合わせて、15個の銀河でどのような傾向が確認できるかを各班で議論しました。銀河の距離と速度をグラフにプロットすると、距離が遠いほど速く遠ざかる傾向が明らかになりましたが、おおまかに一直線上にまとまった分布以外にも、ばらつきがやや大きかったり、二つ以上の異なるまとまりとして確認できる分布も得られました。それぞれの結果をもとに、グラフの傾向が持つ意味や宇宙年齢の求め方について議論したり、データベースからさらに多くの銀河について測定を行うことで傾向が変化するかの調査を進めていきました。どの班も議論が白熱し、深夜まで活発に議論・解析に取り組んでいる姿が印象的でした。
また、夜間には木曽観測所サポーターズクラブのご協力のもと、天体観望会を行いました。満月と重なったため暗い天体の観察には難しい条件でしたが、月の表面・土星・木星とガリレオ衛星などを観察することができました。スマートフォンで写真に収めることも成功し、議論の間の休息として楽しんでいる様子でした。
二日目は、朝から各班で解析結果・考察について発表資料としてのまとめを進めました。前日にはまとまらなかった考察についての議論や計算結果の再確認に留まらず、直前まで新しい解析を行うなど、各班で協力しながら様々な準備を行っていました。発表会では、共通したテーマではありながらも誰にでも伝わる発表を目指したことで、スライドだけでなく口頭で話す言葉についても注意して準備したことが伺える内容だったと感じられました。各班で得られた宇宙年齢や、それを求める手法も異なったことで活発な質疑応答が行われ、非常に実りのある発表会となりました。
最後に、有馬先生から今回の全体結果とその誤差の要因について、また実習の背景となった、ハッブルとルメートルによる研究やハッブル定数に関する研究成果を解説してもらいました。各班の得られた結果を平均すると、139.5億年という現在知られている宇宙年齢の137.8億年に非常に近い値が得られ、生徒だけでなくスタッフ達も驚く結果が得られました。
講義後にもそれぞれの結果について議論している班が見られ、スタッフも加わってその要因を考察して解析における仮定の限界を知ることもでき、とても有意義な実習になったと思います。
二日間という短い実習期間の間で宇宙年齢を求めるだけでなく、天文学に関する様々な知識を身につけながら、グループで協力・議論して一つの結論を導き出す面白さや難しさを感じてもらえたと思います。生徒の皆さんにとって充実した時間であったことを願うと同時に、この実習を通して得た学びをこれからの探求活動で活かして欲しいと思います。