日時 | 2024/3/26 - 3/29 |
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場所 | 東京大学木曽観測所 |
対象 | 生徒22名(高校1年生~高校3年生) |
担当者 | 高橋*, 森*, 近藤*, 山岸*, 新納*, 有馬*, 谷口*, 厚地*, 和久井*, 和田*, 嶋田, 村尾, 桑江, 米村 (*印は Science Station 以外のスタッフです) |
長野県にある東京大学木曽観測所にて銀河学校2024を開催しました。
全国から集まった高校生22人が、木曽観測所で105 cmシュミット望遠鏡を用いた天文学観測研究に挑戦しました。生徒はA班とB班の2つの班に分かれ、A班は「『第二のベテルギウス』を探せ!」、B班は「超新星の輝きを追いかけて」というテーマで研究を行いました。弊法人から4名のスタッフが参加し、3泊4日に渡る長くも短い実習をサポートしましたのでご報告いたします。
冬の星座オリオン座の左上に輝く1等星ベテルギウス。その普段の姿は、半規則型変光星と呼ばれる種類の変光星で、約0.3等級の振幅でその明るさを変化させています。この通常の変光に反し、ベテルギウスは2019年末から2020年初頭にかけて、実は2等星(通常の1/3倍の明るさ)にまで暗くなってしまっていました。この「ベテルギウスの大減光」と呼ばれる特異な現象が発生したことなどから、ベテルギウスは実は何か特別な星なのではないか、という推測がなされることがあります。では、ベテルギウスは本当に「特別」なのでしょうか?
A班では、ベテルギウスのような死にかけの重い星たちが膨れ上がった、「赤色超巨星」と呼ばれる種類の星を観測しました。観測で得られた画像を解析することで、幾つもの赤色超巨星たちの明るさや色、それらの時間変化を測定しました。これらの情報をベテルギウスのものと比較することで、「ベテルギウスの大減光と似た現象を起こしている赤色超巨星は存在するのか」、「ベテルギウスはどれくらい特別な星なのか」といった、未だ誰も解明したことのない謎に挑戦しました!
1日目、日中は悪天候で観測が危ぶまれる状況でしたが、夕方から夜にかけて徐々に晴れ始め、何とか観測を行うことができました。雲の動きに一喜一憂しながらも、自分たちで作成したレシピで望遠鏡を動かし、天体画像を取得できた時には歓声が上がりました。
2日目は、観測で得られたデータの一次処理と解析を行いました。自分たちで取得した沢山の赤色超巨星の観測データを、3グループで分担して一次処理を行い、続いて画像データから明るさを測定する、測光を行いました。明るさの測定方法についてもグループで議論しながら作業を進めていました。中間発表会では、B班のメンバー達と、自分たちの研究内容と進捗を報告し合うことで、他の研究に触れるとともに、自分達のテーマについても理解を深めていました。解析終了後は、様々な赤色超巨星達と、ベテルギウスとの違いをどのように評価するかについて、それぞれアイディアを出し合いました。そして、「明るさの変動」、「色の違い」、「星団NGC 2345との比較」の3テーマに分かれて分析する方針を決めました。
3日目は、朝からそれぞれのテーマごとに分析を進めていました。「明るさ班」は、観測した赤色超巨星たちの明るさの時間変動をグラフに表すだけでなく、ベテルギウスの過去に観測されたデータとも見比べて変動を評価していました。「色班」は、二色図や色ごとの変動のグラフを作成するなど、様々な視点から恒星としての性質を探っていました。「NGC 2345班」では、赤色超巨星のうち、散開星団に属するものとそうでないものとの違いに注目して色等級図を作成し、ベテルギウスとの違いについて評価していました。これらの分析を行うにあたり、2日目の終盤に気が付いた等級測定における誤差についても、班を超えて統計的に評価しようとするなど、高いレベルの議論が見られました。午後には、これまでの分析結果と議論を踏まえ、口頭発表・ポスターセッションのための準備を行いました。一人ひとりが1テーマを担当し、分かりやすい発表を目指してスライド作成などの作業を進めました。発表本番では、誰が聞いても納得できるような説明を心がけつつ、熱心に発表していました。質疑応答ではB班からだけでなく、職員の方や、見学に来てくださった方からも質問が出ました。その度に、分かりやすく的確に答える姿はとても印象的でした。
銀河学校最終日の4日目には、閉会式と総まとめが行われました。4日間の短い間でしたが、今回の観測・研究を通じて打ち解けあった様子が見られました。また、銀河学校が終わった後もこの研究を続けたい、と熱意を燃やしている生徒たちもおり、スタッフとしても大変嬉しく思いました。
夜空を覆う無数の星々の中には、昨日までは見えていなかった場所で突如として明るく輝き出す星が存在します。恒星が寿命を迎えた際に起こす大爆発によって生まれる超新星がその代表例であり、短時間で劇的な明るさの変化を示します。では超新星の明るさや色は時間の経過と共にどのくらい変化するのでしょうか?B班では宇宙で起こるダイナミックな爆発現象である超新星の観測を通して、現代の天文学におけるホットな分野の1つである時間領域天文学に触れてもらいました。
1日目は実際に観測で使用する105 cmシュミット望遠鏡の見学をした後、研究内容について班長から説明を受けました。朝から雷鳴が聞こえるほどの大雨でしたが、幸いにも夜には天気が回復して無事に観測をすることができました。生徒はターゲットの超新星を観測するために必要となるシュミット望遠鏡の指示ファイルを自らの手で埋めることにも挑戦しました。観測中に薄雲がかかることもあったためか撮影したデータが思ったほど鮮明に撮像できていないトラブルもありましたが、持ち時間を目いっぱいに活用した複数回の観測を実施して必要なデータを取得しました。
2日目には、本研究テーマでは各超新星の明るさの時間経過を追うことが必要になってくるため、昨日に取得したデータの他に昨日と同様の設備・方法でスタッフが別日に取得していたデータについても必要な処理を加えた上で解析を行いました。生徒にとっては初めてのデータ処理の作業ばかりだったとは思いますが、各操作の意味と目的をしっかりと理解した上で処理を行っていました。今回は3つの超新星について解析を行う関係で班全体を3グループに分けて1グループ1つの超新星に取り組んでいましたが、それぞれの解析データが出揃ってからは班全体で熱心な議論を交わしていました。多くの生徒が積極的に対象の超新星に関する情報を収集しており、過去の光度変化グラフや母銀河の等級などの有用な情報を自分たちで探し出して議論に活用する姿が見られました。 また、予想されるデータと比較して誤差の範囲を超えて明らかに異なる結果を示しているデータについて、その誤差を補正するべく原因として考えられる様々な可能性に思いを巡らせるなど、非常に実践的な取り組みが印象的でした。
3日目には、前日に引き続いて活発な議論が行われ、各超新星がどの分類に該当するのかについて考察を深めました。生徒は光度変化率などに着目し、先行研究と比較することによって自分たちの観測した超新星はIa型超新星が1天体、II型超新星が2天体であると分析しており、これは分光観測を用いた先行研究と相違ない結果となりました。続く口頭発表では自分たちの得た結果について分かりやすく説明しており、ポスター発表においてもA班の生徒と自分たちの成果について積極的な説明や議論を行っている姿が見られました。また、最終日ということもあってか夜のクイズ大会や自由時間には班を超えた生徒同士の活発な交流があり、実習以外の時間も充実した時間を送っていました。
4日目は、班全体でのまとめを行いました。班長から、銀河学校でやってきたことは高校生のレベルをはるかに超えて現役の天文学者が考えるレベルの研究であったとカミングアウトされました。その事実に驚きつつも、ハイレベルの実習をやり遂げたことは生徒の皆さんにとって大きな自信になったのではないでしょうか。
今回の銀河学校で生徒たちは観測から得た生のデータを処理・解析し、その結果を議論することを通して天文学の研究の様子や面白さを垣間見ることができたのではないでしょうか。多くの生徒が「議論することが楽しかった」や「もっと研究に時間を使ってみたくなった」などと話しており、この4日間は有意義かつ貴重な経験になったのではないかと思います。また、各班ともに有志の生徒を中心に来年の天文学会ジュニアセッションに向けた活動を続けるようであり、一連の活動を通した経験が彼らの今後の活躍に活かされることを期待しています。