サイエンスカフェ in 松江 2025

サイエンスカフェ in 松江 2025

日時 2025/12/13(土)
場所 島根県立松江北高等学校
対象 公開イベント
担当者 大平, 丹羽, 二階堂, 石川, 村尾, 河野, 岡部, 三宅

概要

Science Station (以下、SS)では、毎年、島根県立松江北高等学校と連携して「サイエンスカフェ in 松江」というイベントを開催してきました。 このイベントは、松江北高校とSSが共催する形で開催されており、カフェのような場所でお茶をしながらサイエンスについて語らうことを目的とするものです。今年のサイエンスカフェ in 松江北ではSSメンバーによるトークに加え、松江北高校理数科の生徒さんたちの研究の中間発表を拝聴し、研究に対するアドバイスを行いました。

トーク1: AI for Scienceの地平

講師: 三宅 智史 (東京大学工学部 3年)

本トークでは、人工知能(AI)が現代の科学研究にどのような変革をもたらしているのかを、具体例を交えながら紹介しました。科学はこれまで、実験科学から理論科学へ、そしてコンピュータを用いた計算科学へと三つのパラダイムを通じて発展してきました。近年は大量のデータとAIを活用する「第4のパラダイム」としてのデータ駆動科学が急速に広がっています。このAI for Scienceの位置づけを明確にしたうえで、AIが成果を生み出す三つの基本的な役割――「認識」「推論」「探索」――に焦点を当てて解説しました。

「認識」の章では、ブラックホール画像の解析や野生動物の個体識別、素粒子実験データの解析などを例に、AIが高次元データから特徴的な構造を見出す力について紹介しました。

つづいて「推論」の章では、タンパク質の立体構造予測や核融合プラズマ制御、気象予報などを通じて、AIが複雑な計算を高速に近似し、科学的理解や社会的安全に貢献している現状を示しました。

さらに「探索」の章では、新規材料や抗生物質、さらには新しいアルゴリズムの発見といった、人間だけでは到達が難しい広大な探索空間におけるAIの可能性を取り上げました。AIがどのように効率的に解を見つけるかについては、より解である可能性の高い方へ探索を進めていく様子を標高に例えて、黒板にイメージ図を描きながら説明をしました。

三宅によるトークの様子
三宅によるトークの様子

講義の終盤では、AIの限界や誤り(ハルシネーション)にも触れながら、AI時代における科学者の責任について議論を投げかけました。

AIは「正しさ」を保証する存在ではなく、あくまで確からしい結果を提示する道具です。AIを過信するのではなく、科学の本質である検証と批判的思考を保ちながら活用する姿勢が重要です。

生徒からは、科学におけるパラダイムシフトについて「第5のパラダイムとはどのようなものだと思いますか」という質問がありました。パラダイムシフト自体、これまでの概念や価値観が一変する転換のことをいうため、AIがつくる時代の次にどのようなことが起きるかについては、なかなか想像が難しいといえます。また、先生方から「高校生の段階でできる研究は、ほとんどが基礎的な実験科学や理論科学です。専門的な研究の世界へと巣立っていく生徒のためには理論科学やデータ駆動科学に基づいた研究を高校生のうちから挑戦するべきでしょうか?」という質問もいただき、これについては基礎的な実験科学や理論科学が今日の科学においても非常に重要な役割を担うことについて議論しました。

このトークを通して、サイエンスの立場におけるAIとの正しい向き合い方について考えるきっかけを提供することができたのではないかと思います。

(記: 丹羽)

トーク2: インド洋を旅する研究者―MISSION:海洋プレートの岩石を採取せよ

講師: 丹羽 佑果 (東京科学大学理学院 地球惑星科学系 博士2年)

本トークでは、2024年にスピーカーが参加したインド洋での研究航海「MOWALLプロジェクト」を中心に、最先端の海洋底科学研究・海洋調査について紹介しました。海底地形・地下構造の探査手法から岩石採取、今後の分析計画までを、スピーカー自身の体験を交えながら解説しました。

まず生徒に「行ってみたい国はどこですか」という問いかけを行いました。その後、スピーカーが昨年行ってきた地球半周の研究・調査の旅について、地図を示しながら説明しました。ノルウェーでの留学と研究航海、アフリカ調査、インド洋調査といった一連の活動が紹介されました。

丹羽によるトークの様子
丹羽によるトークの様子

続いて、「海底は人類最後の秘境である」という視点から、海底やその地下構造をどのように調べているのかについて説明しました。人工衛星データや船舶観測によって海底地形を調べていること、さらにマルチビーム測深や反射地震波探査によって海底下の地層構造まで可視化できることが示されました。反射地震波探査については、ノルウェー留学中にスピーカー自身が体験した調査結果や船舶上の居住環境の紹介も行われました。

岩石サンプリングについては、「海の底から石を採るにはどうしたらいいか?」という問いかけを行い、「潜る」「掘る」「すくう」という三つの方法が示されました。それぞれについて、有人潜水船「しんかい6500」による調査、掘削船「ちきゅう」を用いた国際海洋底掘削計画、そしてドレッジによる岩石採取が説明されました。今回のインド洋調査で実際に行った、ドレッジを用いて水深約4000 mの深海底から岩石を回収する様子については、写真やドローン映像を用いて紹介され、約30日間の航海で得られた多くの試料と観測成果が示されました。

会場では、インド洋から得られた海洋底玄武岩の試料に加え、過去にしんかい6500による調査で採取された深海火山産のアルカリ玄武岩や、オーストラリア産のコマチアイトなどの岩石試料が展示されました。また、岩石を光が透過するほど薄く研磨してスライドガラスに接着して作製した岩石薄片を、偏光板で挟んで組織を観察する演示も行われました。

岩石展示・演示の様子
岩石展示・演示の様子

さらに、採取された岩石がどのように形成されたのかについて、プレートが引き裂かれ、マントルが上昇・部分溶融してマグマが生成されるという海洋地殻形成モデルについて解説が行われました。より専門的な話題として、中央海嶺の拡大速度と地殻の厚さの関係が説明されました。また、海洋地殻およびその下のマントルが断面として得られる可能性のあるトランスフォーム断層について触れ、MOWALLプロジェクトの目的についても説明が行われました。

最後に、今後予定されている薄片観察、化学分析、同位体分析を通じて、地球内部の理解がどのように深まっていくのかが示され、研究の「続き」が展望として提示されました。

(記: 三宅)

謝辞

本イベントは島根県立松江北高等学校と共催で行い、同校の先生方に多くのご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。

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