| 日時 | 2025/12/12(金) |
|---|---|
| 場所 | 島根県立松江北高等学校 |
| 対象 | 普通科理系および理数科の2年生約120名 |
| 担当者 | 大平, 丹羽, 二階堂, 石川, 村尾, 河野, 岡部, 三宅 |
島根県立松江北高校で普通科理系と理数科の2年生を対象に出前授業を行いました。生徒たちは
という5つの授業から1つの授業を選択して受講しました。授業時間は5分~10分の途中休憩を含めて110分です。
本授業では、「コンピュータで世界を解く!」と題し、大学以降の研究開発でも広く用いられている「数値計算」の手法について、体験型の講義を行いました。
前半は、数値計算の概要とその有用性について解説しました。数値計算とは、現実の複雑な現象をモデル化(単純化)し、コンピュータ上で再現することで理解を深める手法です。
具体例として、感染症の拡大予測などで用いられる「パーコレーションモデル」を紹介しました。隣接する人へ感染が伝播する確率pを変化させた際、都市全体への拡大確率P(p)がどのように変化するかを考察しました。確率がある閾値を超えると劇的に感染が広がる「相転移」のような振る舞いをすることを見てもらい、その振る舞いの要因について、クラスタ(感染者の塊)のサイズに着目することで解説を行いました。
この事例を通じ、自分でプログラムを書いているにもかかわらず、予想外の振る舞いや新しい発見が生まれるという、数値計算ならではの面白さを生徒たちに感じてもらいました。
後半は、Google Colabを用いて実際に数値計算を体験する実習を行いました。 まず、「単振り子の周期」について検証しました。生徒自身が振り子の初期角度を設定してシミュレーションを実行した結果、角度が大きくなると周期が長くなることを確認しました。教科書的な「等時性」が厳密には成り立たないことをデータで示すことで、数値計算の威力や便利さ、数値計算でやることの意味を実感してもらいました。
続いて、「二重振り子」のシミュレーションを行いました。生徒たちはパラメータを自由に変更しながらアニメーションを観察し、最初は複雑な動きに驚きつつも、次第にパラメータごとの挙動の違いを楽しんでいました。 さらに、隣の席の生徒と「わずかに異なる初期値」を設定した振り子を見比べる実験を行いました。初期値の微差が時間の経過とともに全く異なる動きになる様子を観察し、これが「カオス」と呼ばれる現象であることを学びました。天気予報が外れる要因も大気のカオス性にあること、そして高性能な計算機でも越えられない「予測の限界」が存在することを紹介しました。 最後に、「個々の動きは予測できなくても、全体の確率やパターンは予測可能である」という点を、冒頭のパーコレーションモデルの例と結びつけて再確認し、数値計算の意義を伝えて講義を締めくくりました。
受講した生徒からは「実際に自分の興味のある分野で数値計算を行ってみたい」といった前向きな感想が寄せられました。様々な分野で強力な武器となる数値計算の考え方が、今後の大学での研究や課題研究などの場面で活かされることを願っています。
本授業では、高校物理ではほとんど扱われない粉粒体について紹介しました。粉粒体は、その名の通り粉や粒の集合体であり、水のような流体と比較して非常に不思議な現象を示します。一見すると単純な砂や粒の集まりですが、振動を与えると流体のように振る舞ったり、固体のように固まるジャミング転移を起こしたりするなど、直感に反する挙動が数多く存在します。
授業の前半では、粉粒体の理論的な側面から解説を行いました。粉粒体は個々の粒子が大きいため熱エネルギーの寄与が無視できるほど小さく、熱平衡状態にはなり得ないという特徴があります。そのため、通常の統計力学の議論が通用せず、エネルギー散逸を考慮に入れた新しい非平衡統計力学の構築を必要とします。粉粒体物理学は、理論的に未だ完成されていない発展途上の分野であることを学びました。
こうした理論的背景を踏まえた上で、具体的な現象についての思考実験を行いました。砂を敷き詰めた容器の底面にかかる圧力の分布や、砂が落下している最中の砂時計の重さがどのような値を示すかなどについて、生徒同士で予想し議論する時間を設けました。一見単純そうに見える問いに対し、予想することの面白さと難しさ、そして実際の現象が直感通りにはいかない非自明さを体感してもらいました。
授業後半では、実際に砂を用いた実験を行い、粉粒体特有の現象を観察しました。具体的には、砂山が崩れずに安定する角度である安息角の測定や、混合物を振動させると大きな粒子が浮き上がってくるブラジルナッツ効果、摩擦によって固着と滑りを繰り返すスティックスリップ現象などを実際に目の当たりにしました。砂のようにありふれた物質でも、少し考えただけでは予測できない複雑な現象が起こります。そうした現象の観察を通して、身近な物質に潜む物理学の奥深さや、未解明な謎に挑む面白さが実感できたのではないでしょうか。
本授業が、粉粒体物理学という分野に触れ、ひいては物理の実験と理論に興味を持っていただけるきっかけになればと思います。
本講義では有機化学において重要な役割を果たしている有機分子の構造決定の手法を学びつつ、実際の構造決定を体感してもらいました。
最初に有機化学の入門として、そもそも有機化学とはどのようなものなのか、そしてなぜ有機分子の構造を考えることが重要となるのかについて簡単な解説を行いました。その上で銀杏の匂いを構成する酪酸やパイナップルの香りを構成する酢酸エチルといった身近な有機化合物の構造式を見比べてもらうことを通じて、構造式の重要性についての理解を深めました。
その後、実際に用いられる以下の手法の原理と内容について、実例やクイズを用いながら解説しました。
IHD(水素不足指数):二重結合の数と環構造の数を予測するために使われる指標 IR(赤外分光法):分子が持つ特定波長の光を吸収する性質を用いて官能基を予測 MS(質量分析法):分子量や官能基を予測する 13C-NMR(炭素13核磁気共鳴):対称性に着目して形を予測する 1H-NMR(プロトン核磁気共鳴):水素の環境に着目して形を予測する
これらの実践的な手法について様々なスペクトルデータや図表を用いて学んだ後は、与えられた4つのスペクトルの測定結果のみから、実際に複雑な分子構造を特定することが目標のパズルに挑戦しました。このパズルでは最初にMSとIHDを用いて二重結合と環の数を予測した上で、IR、13C-NMR、1H-NMRの順に適用することで最終的に1つの構造を特定しました。
学生の皆さんは学んだ知識を総動員し、提示されたヒントと合わせることによって、実際の化学者と同じように分子構造を決定するプロセスを体験していました。
クイズでは多くの学生が正解を導き出すことができていた他、実践的で難易度も高かったパズルについても試行錯誤の末に答えに辿りついている学生が見受けられ、本講義で取り扱った知識をしっかり習得しているのが感じられました。 また、自身が実際に取り組んでおられる研究との関連で、研究者が行う研究について質問してくださった学生の方もいらっしゃったのが印象的でした。
最後になりますが、本講義が有機化学の奥深さやそれを支える分析手法の魅力に触れ、今後の学びや研究への新たな視点を得るきっかけとなっていれば幸いです。
この授業は測地学をテーマに、地球一周の長さを測ることにチャレンジしました。測地学とは地球の形・大きさ・重力・自転などを正確に測り、地球を数値で理解するための学問です。地球物理学や地質学、海洋科学などの研究分野で用いる基礎的なデータを与えるものとしても重要な役割を担っていますが、高校生にとってはあまり身近な学問ではありません。そこで今回の授業では、測地学の醍醐味を感じてもらうために、実際に歩いて距離を測定する「歩測」という手法と、基礎的な数学の知識を用いて、地球一周のおおよその長さを求めることに挑戦してもらいました。
まず初めに、古代の人々が考えていた「世界のかたち」について紹介してから、今日では当たり前となっている「地球は丸い」ということがどうして正しいといえるのかについて考えてもらいました。その根拠としては、月食のときに見える地球の影が丸いことや、海洋上の船が地平線付近に見える島から離れていく際、その島は海面に近い側からから見えなくなっていくことから説明をしました。
つぎに、地球が丸いということを前提として昔の人はどのように地球一周の長さを測定したのかについて考えていきました。エラトステネスが用いた方法は、シエネとアレクサンドリアという二つの街の距離と緯度差から、地球一周の長さを計算するというものです。最初のワークで生徒のみなさんに実際に計算をしてもらいました。後半の授業では、都市の経度の違いは考慮しなくてよいのか?という非常に鋭い質問もあり、内容をよく理解していることがうかがえました。伊能忠敬が二地点間の緯度差を求める際に用いた、北極星の高度から緯度の差を求める方法についても、二つめのワークで計算に挑戦してもらいました。最初は難しく感じられたかもしれませんが、解説を聞くと納得してもらうことができた様子でした。
実習のパートでは南北にのびる松江北高校の長い廊下を使って「二地点間の距離」を実際に計測してもらいました。メジャーでも足りない程の長い距離を計測するために、測地学や地質学の分野では「歩測」がよく用いられます。はじめに一歩あたりの平均の長さを測定してから、廊下を歩いて歩数を数えることにより全体の長さを測定しました。その後、廊下で歩いた2点間の緯度差を使って、エラトステネスや伊能忠敬が用いた手法と同じように地球一周の長さを計算してもらいました。
生徒たちが算出した値のなかには、実際の値である40009 kmに近い41000 kmや39000kmという値がありました。算出した値の精度は、歩幅の測定の精度や歩測の際に均等な歩幅で歩いたかどうかなどが効いてくると考えられます。実はその他にも、今回測定に使用した廊下が真北方向から少しずれていることが、誤差の原因としても挙げられることを説明しました。コンパスが示す北の方向は地磁気の方向に沿っていますが、それは地図の北の方向とは一致しておらず、これを偏角といいます。そのためコンパスではピッタリ南北に伸びているように見える廊下が、実は偏角の分だけ南北方向からずれていたことを説明して授業を締めくくりました。地磁気に興味を抱いてくれた生徒もおり、地球内部にある液体の核が地磁気の成因と考えられていることを説明するととても驚いていた様子でした。授業を通して、ダイナミックな地球の存在を感じることができたのではないかと思います。
本授業では、身近なものを起点として宇宙スケールまでのスケールの違いを、「冪(指数)」や数の桁(オーダー)に着目して捉えることを目的とし、スケール感覚を身につけることを目標としました。直接目にすることのできないミクロな世界から宇宙規模のマクロな世界までを、いくつかの次元で共通の視点で比較しながら考えることを通して、科学的に世界を捉える見方を学びました。
授業の前半では、講師の大学紹介や簡単な研究紹介ののち、指数表記やオーダー感覚の基本的な考え方について説明しました。その後、選択式のクイズを用いて、人間の身長や日常的な速度といった身近なスケールから、地球・太陽系・天の川銀河といった宇宙スケールまでを段階的に扱い、生徒同士で議論しながら概算値を推定する活動を行いました。更に、“Powers of Ten” という教材を利用し、身近な対象から宇宙全体へと視点を拡張することで、宇宙の広がりを相対的にイメージできるようにしました。これらの活動を通じて、生徒たちは、日常的には大雑把に扱っている数値であっても、扱うスケールが大きく変わることで直感的な把握が難しくなることや、数の桁に注目することの重要性に気づいている様子が見られました。
授業の後半では、前半で体験した幅広いスケールの考え方を踏まえ、班ごとに分かれて実習を行いました。宇宙に関するいくつかの題材について、細かな数値にこだわるのではなく、数の桁を捉えることを重視しながら、生徒自身の手で概算を行い、考え方を共有しました。また、宇宙に知的生命体がどの程度存在しうるかといったドレイク方程式に類似した問にも、議論を通して考察しました。
本授業は、高校までに学ぶ数学の範囲を用いて進行しましたが、原子スケールから銀河規模までを同じ視点で考えるという点で、生徒にとって新しいスケール感覚を導入する内容となりました。授業中は、講師による一方向的な説明をできるだけ避け、生徒同士が話し合いながら考える時間を多く設けることで、能動的に思考する姿勢が見られました。これらの活動を通じて生徒たちは、日常生活においては本来許されないような大まかな数値の扱いであっても、対象をミクロな世界や宇宙規模といった大きく異なるスケールに拡張して考えると、その差異を直感的に把握すること自体が難しくなるという点を実感し、数の桁に注目することの重要性に気づいている様子が見られました。
本授業を通じて、生徒たちが「宇宙」という対象を単に遠い存在としてではなく、数的なスケールを通じて俯瞰的に捉える視点を得るきっかけとなっていれば幸いです。