サイエンスカフェ in 松江

サイエンスカフェ in 松江

日時2015/11/14(土) 13時~16時半
場所カラコロ工房
対象公開イベント
担当者卯田、西原、三戸、山崎、穂坂、所、谷口、沖本、渥美

概要

ScienceStation では、毎年、島根県立松江北高等学校と連携して「サイエンスカフェ in 松江」というイベントを開催してきました。このイベントは、カフェのような場所でお茶をしながらサイエンスについて語らうことを目的とするものです。今年は松江北高校と ScienceStation が共催する形で、ScienceStation メンバー 3 人がトークを行った他、松江北高校理数科の生徒さんたちが研究発表を行いました。

トーク1: エコロジー ~持続可能な生活について考えてみよう~

所 拓磨 (早稲田大学 創造理工学部 環境資源工学科 4年)

私たちの将来にとって最も重要なことの一つに、環境問題が挙げられます。今回、大学で環境問題に関連する技術を研究している Science Station メンバーの所が、環境問題についてお話ししました。

所のトークは、「環境問題が本当に起きているということ」の確認から始めました。地球上で人が生きるのに必要な資源の量を表すのに「エコロジカル・フットプリント (EF)」という指標があります。これは森林や耕作地といった人類に必要な資源を何項目かに分類し、それぞれ必要な資源量を供給するために要する地球の面積に換算して表したものです。EF の合計値は1960 年頃から地球全体の面積を上回っていることが知られています。これは、人類の生活は持続不可能なレベルに達してしまったことを意味します。持続可能な生活を実現するためには、何らかの手を打たなければいけないのです。

所 トーク
所 トーク

それでは、私たちはどうやってこの問題に取り組まなければいけないのでしょうか。ここで紹介されたのが、「IPAT 等式」と呼ばれるものです。我々の生活が地球環境にかける負荷 (Impact) は

  • 人口数 (Population)
  • 生活の豊かさ (Affluence)
  • 技術コスト (Technology)

という 3 つの要因で決まります。「これら 3 つの要因を掛け算したものが地球環境への負荷を表す」という内容を、各要因の頭文字を取って I = PAT という式で表したものが IPAT 等式です。これに基づけば、環境負荷 I を減らすには人口 P、豊かさ A、技術コスト T を引き下げることが、持続可能な生活を実現するために必要です。所は、これら 3 要因の中でも特に技術コスト T の影響が大きく、技術の進歩が環境問題の解決に向けて不可欠であることを主張しました。

また、環境問題の解決には私たち一人ひとりの努力も必要だと言われることがあります。中でも有名なのは

  • 削減 Reduce
  • 再利用 Reuse
  • 再生 Recycle

をまとめた「3R 運動」で、こうした取り組みが推奨されてきました。しかし IPAT 等式の「T: 技術コスト」を考えると、3 つの R は並列ではなく、実は優劣が付きます。たとえば、リサイクルにはエネルギーが必要になります。仮に何かの資源をリサイクルしたとしても、リサイクル時に大量のエネルギーを消費したら、それは環境負荷になってしまいます。現代の技術の状況を踏まえると、3R は Reduce, Reuse, Recycle の順に効果があるのです。

以上のように、所は技術を研究する立場から、現状の把握から我々の日頃の取り組みまでについて、環境問題の大枠をコンパクトに語りました。私たちは「環境問題が大事だ」とは分かっていて何となく興味を持っている方が多いと思います。しかし、その詳細についてはあまり知らないという方が多いのではないでしょうか。そのためか、会場では活発な質疑応答も行われました。今回のトークが聴衆の皆さんにとって、環境問題を改めて考える 1 つのきっかけになれば幸いです。

(記: 穂坂)

トーク2. データの見方にご用心

スピーカー:穂坂 秀昭(東京大学大学院 数理科学研究科 数理科学専攻 博士3年)

普段、色々な場面で目にする「グラフ」。私たちは何気なくグラフを扱っていますが、実はそのグラフは、色々誤解の罠が潜んでいます。そこでこのトークでは、当団体 ScienceStation の簡単な紹介を交えながら、データを正しく見る大切さについてお話ししました。

穂坂 トーク
穂坂 トーク

普段テレビなどで、円グラフが利用されているのをよく目にすると思います。しかし円グラフは、使い方によっては誤解を生む可能性もあります。それを実感するため、穂坂はまず、円グラフをスクリーンに映し出して「その中の 1 つの項目が何パーセントなのか」「2 つの円グラフの指定された項目同士を見比べたとき、どちらが大きいか」を当てるクイズを出しました。結果、すべての質問に自信を持って答えられた人はほとんどおらず、また円グラフに対する感じ方は人によってばらつくことが分かりました。円グラフは数値を細かく読み取ったり、2 つの円グラフを見比べて分析をしたり、というような作業には向いていません。このことを実感していただけたようです。

グラフを描くときには「データをどう見せたいか」ということを考え、目的に合ったグラフの種類を選ばなければならないという話に、聴衆のみなさんは興味深げに耳を傾けていました。

(記: 西原)

トーク3. ・←この点、原子10000000000000000個分
~究極の顕微鏡で原子を見る!~

スピーカー:山崎 詩郎(東京工業大学大学院 総合理工学研究科 材料物理科学専攻 助教)

物理や化学の授業で習う「原子」。とても小さいということは皆さんご存知だと思いますが、具体的にどれくらい小さいかイメージできるでしょうか。原子の直径は約10億分の1mです。これは「『手の指先サイズに縮小した日本列島』で暮らす人間の手の指先」に相当します。我々の常識とはかけ離れた小さな世界(超ミクロの世界)の話を始めるという、たとえ話を使った予告で、聴衆の心をグッと引き寄せました。

“超ミクロ”の世界での運動は「量子力学」という理論で記述されます。この理論では、

  • 1つのものは2つの場所に同時に存在できる(状態の共存)
  • 観測されるまで、ものは確率的に存在している
と考えます。また、ここでは”超ミクロ”の世界の話をしているので、実際に議論の対象となる「もの=電子」であること、電子は原子核の周りに確率的に存在し、それはあたかも雲のようであることを説明しました。

雲のように電子が存在しているとする「量子的」な原子と、原子核の周りをぐるぐると電子が回るとされる「古典的」な原子は何が違うのかイメージを持ってもらうためにコマを使った簡単な実習を行いました。

山崎 トーク
山崎 トーク

まず実習の準備として参加者の皆さんに、CDの表面全体に3~4色の丸いシールを好きに貼ってもらい、中心の穴にビー玉をはめることで簡単なコマを作ってもらいました。ビー玉が原子核、その周りに貼ってもらったシールが電子を模しています。尚、色の種類が電子の数を表しています。
最初の実習では明るい蛍光灯の下で「CDコマ」を回します。すると、内側に貼ったシールの色の円が内側に、外側に貼ったシールの色の円が外側にできます。これを見た人は、「各電子がとても速く回っていて、その軌道が見えている」と思うでしょう。これが古典的な原子のイメージです。
次に、部屋の電気を消してコマにストロボライトを当てます。ストロボライトは非常に短い時間(0.01~0.1秒程度)で点滅を繰り返すため、ライトが当たった瞬間のシールが1枚1枚はっきり見えます。このとき、同じ色のシール(同じ電子)が複数の場所にあります(=状態の共存)。これが電子の位置が観測するたびにランダムに変わる「量子的」な原子の振る舞いのイメージです。
ストロボライトを当てた瞬間のCDコマの見え方に、高校生はとても興奮しているようでした。聞いただけでは伝わりにくい話も、実際に手を動かして目にすることで、体感してもらえたと思います。

ストロボライトを当てると・・・
ストロボライトを当てると・・・

実習の後は、山崎が研究で使っている「走査型トンネル顕微鏡」について紹介しました。原子は人間の目に見える光の波長よりも小さいため、学校などで用いる光学顕微鏡では見ることが出来ません。そこで原子を見るために原子を用います。最も代表的なものが量子力学の重要な特徴である「トンネル効果」を利用した走査型トンネル顕微鏡です。この原理を簡単に説明しました。また、実際に観測された画像を見せ、「原子が見える」ということを伝えました。

最後に、レーザーポインターを使って、光の干渉の性質が現れる「ヤングの実験」のデモンストレーションを行いました。また、本質的に同様の現象が光ではなく電子でも観測されたこと(二重スリット実験)、すなわち電子は波の性質(波動性)も有していることを説明しました。約60分という長めのトークでしたが、実習や分かりやすいたとえ話などを通してミクロな世界の面白さを体感できたようでした。

(記: 西原)

研究発表

発表者:松江北高校理数科 2 年生のみなさん

今回のサイエンスカフェ in 松江は、松江北高校理数科 2 年生が行った課題研究の中間発表の場を兼ねていました。そこで今回、理数科 2 年生の生徒さんが 8 つのグループに分かれて、課題研究の発表を行いました。課題の内容は、以下の通りです。課題の内容は様々ですが、総じて「身近なところにあるもの / ことを調べよう」という気持ちが伝わってくる内容でした。

  • 乾燥剤の種類による発熱の度合いの調査
  • 宍道湖の水質浄化に向けた取り組み
  • クモの糸の染色方法
  • 画像を用いた簡易視力測定
  • 折り紙を用いた数学の問題の解法
  • ダンゴムシのニコチン依存症
  • 赤シートで赤い字を隠せる原理
  • 発電効率のよいプロペラの形

たとえば「乾燥剤の種類による発熱の度合いの調査」では、シリカゲルをはじめとする乾燥剤が研究対象でした。彼らはそもそもガラスに興味を持っていたそうですが、シリカゲルがガラスと似た成分で構成されることを知り、シリカゲルに興味を持ったそうです。そして発表では、吸水原理に基づく乾燥剤の分類や、シリカゲルを含む「物理的乾燥剤」の吸水性能が温度・粒の大きさでどう変わるかを調べた実験紹介されました。また「クモの糸の染色方法」の発表では「色がついたクモの糸を作りたい」という動機で研究がはじまったそうです。クモの糸が作られる原理を勉強したこと、どのようにしたら糸に色が付くかを自分たちで考えて試行錯誤したことが、とてもよく伝わってきました。

当日は各グループがそれぞれ 5 分ほどで、問題を考えるに至った契機、問題を確認するために行った実験の結果、今後の展望を発表しました。また発表の後には生徒のみなさんに加え Science Station のスタッフも交え、活発な議論が行われました。

高校生の発表
高校生の発表
展示品
展示品コーナー
(記: 穂坂)

謝辞

本イベントは島根県立松江北高等学校と共催で行い、同校の先生方、生徒の皆さんに多くのご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。

関連リンク