サイエンスカフェ in 松江

サイエンスカフェ in 松江

日時2016/12/3(土) 13時半~16時半
場所カラコロ工房
対象公開イベント
担当者卯田、谷口、鳥羽、青木、沖中、田中宏、橋立、小形、沖本、渥美、寺村、田中舞、今村、朝倉

概要

ScienceStation (以下、SS)では、毎年、島根県立松江北高等学校と連携して「サイエンスカフェ in 松江」というイベントを開催してきました。このイベントは、カフェのような場所でお茶をしながらサイエンスについて語らうことを目的とするものです。今年は松江北高校と ScienceStation が共催する形で、ScienceStation メンバー 3 人がトークを行った他、松江北高校理数科の生徒さんたちが研究発表を行いました。

トーク1: 医ヤトーーク!核酸医薬について語りたい系大学院生

沖中 望 (東京工科大学 バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻 修士2年)

サイエンスカフェの一番手は、日本人の死因一位である癌について、そしてその抗がん剤研究の話でした。まず導入として、細胞の癌化がなぜ起きるのか、そして癌細胞の特徴などイラストを用いながら説明しました。次に現在用いられている医薬品を大きく三つに分類し、低分子医薬、抗体医薬、核酸医薬のそれぞれ簡単に説明しました。低分子医薬はひとつの病気に対して鍵穴と鍵の関係のように対応しています。抗体医薬は低分子の300倍の分子数を用いていて副作用が出にくい代わり、ものによっては抗体が作りづらい医薬です。核酸医薬は名の通り核酸、つまり遺伝物質に作用する医薬であり、異常なたんぱく質が作られないように未然に防ぐタイプです。

ここでクイズをはさみました。四枚の人物写真を出し、この四人の共通点は?というクイズでした。生徒に実際に答えてもらうと珍回答が何個かあがり、会場では笑いが起こりました。ちなみにクイズの答えは、全員がノーベル賞受賞者というものでした。そのノーベル賞から関連して、RNA干渉について話が移ります。ここでもイラストやアニメーションを用いたRNA干渉についての説明がありました。そしてすぐに二回目のクイズとなります。先ほどと同じように四枚の人物写真から、RNA干渉を発見した人はだれか?というものでした。答えはまさかの四人中二人が発見したという少しずるいクイズ。生徒からは少し悔しそうな声が聞こえました。

クイズが終わったところで、核酸医薬に焦点を絞って進んでいきます。たんぱく質がどうできるのかという話を交えつつ、核酸はDNAやRNAのことで体中のたんぱく質を形成していることなどの説明がありました。核酸医薬の長所は特異性が高くエイズウイルスにも対抗できる可能性があることです。ですが、核酸医薬の承認例は3例しかなく、まだまだ問題点が山積みであるのが現状という話で今回のトークは終了しました。

クイズ以外でも生徒と常に対話をするように進められ、最初からサイエンスカフェは大いに盛り上がっていました。生徒の多くが、飲み物やお菓子を手にすることも忘れて聞き入っていました。

(記: 田中舞)

トーク2. 我々はどこから来たのか

スピーカー:青木 みさ(国際基督教大学 教養学部 物理学専攻 博士1年)

我々はどこから来たのか?そのような哲学的な疑問に対して、果たして答えを出すことができるのでしょうか?

最初に、我々が住んでいる地球について考察しました。地球は豊かな元素に恵まれている星です。しかしながら、宇宙のはじめは、多くの元素があったわけではなく、水素とヘリウムしかなかったと考えられています。では、どのような過程を経て、周期表にあるような多くの元素が生まれたのでしょうか?ビッグバンの後、宇宙には水素とヘリウムでできたガスが漂っていたようです。それらは、一様に分布しているわけではなく、多少のムラがあったと考えられています。そのムラによって、重力の大きさに違いが生まれ、やがて重力が強い場所にガスが集まり、最初の星ができたと考えられています。(ビッグバンから5億年)星の内部では、熱核融合反応によって、軽い核種が融合して重い核種になります。この反応によって、水素・ヘリウムから鉄まで作ることができます。

しかし、よく考えてみましょう。実際、地球上にはそれより重い元素はたくさんあります。次に、鉄より重い元素がどのように作られていくのかについて考えていくことにしましょう。キーワードは超新星爆発です。超新星爆発とは、質量が大きい星が一生を終えるときに発生する天体現象です。超新星爆発に伴う膨大なエネルギーによって、鉄より重い元素を作り出し、爆発によって宇宙空間に放出します。このようにして、鉄より重い元素を作り、放出することができるわけです(諸説有り)。最後に、講師の青木から研究に使っているすばる望遠鏡の紹介、元素の同定方法(分光)を紹介しました。

このトークでは、宇宙の活動サイクルの中で周期表の元素がどのように作られてきたのかについて紹介しました。私たちの体も、星の爆発によって作られたと考えると、遠く感じるような宇宙も身近に感じるのではないでしょうか?

青木のトーク
青木のトーク
(記: 渥美)

トーク3. クラウドと働き方

スピーカー:田中 宏和(早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 修士2年)

田中は現在、大学院の研究室では球面タッチパネルの開発を行っています。一方で、来年からは外資のIT企業での勤務が始まる予定であり、IT関連の学習にも励んでいます。就活を経た田中からは、高校生に向けて、これからの進路をメインとして幅広く語っていただいた。まず、田中は数年前と今ではITをめぐったビジネスの盛り上がりに違いがあることを説明し、自動運転やAIなどで既存の職がなくなっていくであろうことを語りました。その上で、将来やりたいことを高校生に再考してもらいました。また、その夢を叶えるためのステップとして環境を変えることが重要であることを説き、いかにして環境を変えるのかということを具体的な例を示しながらわかりやすく語りました。トークでは例として、ハッカソンやインターンシップへの参加によって人脈を広げる環境の変え方、スマートフォンのアプリを使ったタスク管理など身近なところから自分のIT環境を変えることの2つが示されていました。

今回のトークは,学部生時代からエンジニアとして働き、さまざまな資格を取得している田中ならではの切り口で語られました。よく「偏差値で」「学校名で」学部を選んだ大学生がいます。そのなかで、田中は、就職までを見据えた理系人材としての新しい学び方を高校生に提示しました。このトークは、多くの高校生が将来を切り拓くことのできる理系人材としてのキャリアを描く原点となったと思います。

(記: 寺村)

研究発表

発表者:松江北高校理数科 2 年生のみなさん

今回のサイエンスカフェ in 松江は、松江北高校理数科 2 年生が行った課題研究の中間発表の場を兼ねていました。そこで今回、理数科 2 年生の生徒さんが 7 つのグループに分かれて、課題研究の発表を行いました。保護者の皆様や先生方、私たちSSメンバーの前での発表ということもあり、緊張で硬くなっている様子の生徒もいたので、リラックスできるように司会進行を心がけました。各班の研究タイトルは以下の通りです。

  • 数学班:新子景視vs数学班~魔方陣をかけた戦い~
  • 物理班:アンビリーバブル Unbelie “ bubble”
  • 物理班:ムペンバ効果
  • 化学班:米のとぎ汁乳酸菌と米のとぎ汁
  • 化学班:洗剤の効力 その真実とは
  • 生物班:カタツムリの性質
  • 生物班:蚕の学習能力

各グループがそれぞれ12分ほどで、研究の動機とアプローチの方法、実験の結果と考察、今後の展望を発表しました。予め決められた研究スケジュールに則ってタスクをこなすのではなく、興味のあることについて手を動かして「まずはやってみる」。その結果に対して考察し、反省を生かして次の実験を考える、という積極的な姿勢にはとても刺激を受けました。

発表後の質問時間では私たちSSのメンバーだけでなく、生徒同士や保護者の方々からも質問があり、サイエンスカフェらしく対話の中で研究に対する理解を深めていく様子が見られました。また、各班に対してSSのメンバーが個別にアドバイスをする時間を設け、より濃い内容について議論しました。私(卯田)は数学班を担当したのですが、魔法陣の科学的な意義について一緒に考えました。

質疑応答の様子。生徒からも積極的に質問が上がった
質疑応答の様子。生徒からも積極的に質問が上がった
(記: 卯田)

謝辞

本イベントは島根県立松江北高等学校と共催で行い、同校の先生方、生徒の皆さんに多くのご協力をいただきました。厚くお礼申し上げます。

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